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L'art de croire             竹下節子ブログ

東大前襲撃事件って…

先日、「東大前襲撃事件」という記事をいくつか読んで驚いた。

私は共通テストというものを知らないので、東大でやる共通テストというものが、昔の東大の一次試験のように東大志望の人を対象にしているのかどうかさえ知らない。

しかも、「襲撃」したのが受験生や浪人生ですらない現役の高校二年生だったなんて。

フランスはテロもあるし、デモの度に破壊行動もあるし、何かと物騒な国だけれど、例えば名門グランゼコールの入試に、精神を病んだ誰かが恨みつらみをぶつけてくるということは社会構造的にとても考えられない。

学歴のヒエラルキーが国主導ではっきりしているフランスと違って、私立大学が山のようにあり、私立大学の医学部(フランスはすべて国立)だってたくさんある日本で、どうして、医学部とか東大理三などが強迫観念になるのか分からない。

日本だって、半世紀前なら、東大とか東大理三、なんて、大方の人にとっては別世界の話で「目標」だのコンプレックスだの挫折だの絶望だのの要因とは程遠かったのではないだろうか。

私は日本にいないからよく分からないけれど、多分いろいろ変わったのは、昔のタコツボのような東大と東大の博士号のシステムが、「課程博士」のシステム、「大学院」の拡充、国立大学が国立大学法人化して大きく変わったことと関係があるのだろう。
東大クイズ王とか、東大ブランドのタレントがたくさんいたり、ネットで見たら、「東大合格の極意」とか「東大に入る子の作り方」とか、子供をみんな現役で東大に入れた母の手記とか、「東京大学機械的合格法」とかが溢れているのに驚く。多様性とか個性の尊重とかゆとり教育とかが流行っているのだと思っていたのに、どうして、「東大」がこんなに普通のブランドになったのだろう。そしてそれを本気にして、成績が良ければ東大みたいな思い込みが定着したのだろう。そういえば東大現役合格者対象のアンケートなどというのも週刊誌で見て驚いたことがある。

偏差値という言葉も私の時代にはなかったけれど、そういう数字化で物事を測る風潮、金、コネ、ブランド、一昔前なら人前で語られなかったようなものが堂々とまかり通っているのも怖い。

フランスも50年前はグローバルではない大学システムで、博士号にもいろいろ制限やらランクがあって、医学部の課程は今も独特だ。6年で国家試験、その順位によって専門や研修先が決められ、その後4年かけて「博士号」を取得しないとドクターにはなれない。(確かイギリスなら医学部5年でドクターの肩書がつく。)
でも、フランスは国立大学医学部だけだから学費は限りなくゼロだし、4年目からの実習でも多少収入を得られて、5 年目からはまあ自活できる。
他の専門でも、グローバリゼーションによってアメリカと通ずる「マスター」が登場したり、どんどん変わったけれど、それでも、タコツボ的なものは「内輪」にしっかり残っている。
プレパを経ないで学部からグランゼコールに編入した者は差別されるのがいい例だ。
(東大でも、昔は例えば修士課程に進学するのに外部の大学から来る人は少なく、教授に至るまで「東大を卒業したかどうか」が暗黙の裡にチェックされていた。)

日本で、今の東大ブランドがなんだかゲームの「上がり」のようなフラットな記号になったのは不思議だ。
その「上がり」のまた「上がり」が「理三」という記号なのも、信じられないが、中学生や高校生がそれを本気にして目標にして努力したり挫折したりするのはもっと信じられない。

しかも、塾や家庭教師や有名私立中高などに入れるための経済力が必要というわけで、新自由主義経済における格差の増大が不要なコンプレックスも生み出しているだろう。東大の学費は半世紀前は年間1万2千円だった。今は初年度80万円以上だという。他の物価指数と比べてあまりに高いように思える。

日本の子供たち、若者たちが、へんな階層意識に色づけられず、無限の可能性が広がる世界に目を向けることを願うばかりだ。





by mariastella | 2022-01-28 00:05 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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