人気ブログランキング | 話題のタグを見る

L'art de croire             竹下節子ブログ

ソラスタルジア

アリス・デビオルの《L'éco-anxiété 》を購入して読んでいる。
ディープ・エコロジーなどが煽る「人類の消滅」的恐怖にもともと反発している私には、意見が同じばかりでなく、気持ちを前向きにしてくれる本だ。

私は1999年7月に世界が滅亡する「ノストラダムスの大予言」タイプのパニック操作に異論を唱えてきた。
ルネサンスの知識人だったノストラダムスの生涯をたどった本も出したし、予言を相対化するTV番組の制作にも関わったし、私なりにいろいろなことをしたけれど、その度に言われたのは、「大声で恐怖感を煽る」側が必ず勝つ、ということだった。(『ノストラダムスの生涯(朝日新聞社)』『さよならノストラダムス(文藝春秋)』)

その後、陰謀論と終末論についての本(『陰謀論にダマされるな(ベスト新書)』)などでも、この手の言説を丁寧に批判してきたのだけれど、ディープ・エコロジストや極端な自然回帰運動やらにはどう対応していいか分からなかった。
その延長に、「コロナ禍」での世界中の「先進国」の過剰対応を前に、自分自身も、政策として展開された「恐怖」の前でどういう心理状態になるかがよく分かった。

まだ30 代のデビオル博士だが、病院勤務だけでなく政府の衛生機関や国際衛生機関、パストゥール研究所などでさまざまな研究と実践を重ねた人で、彼女がこのコロナ禍を分析する言葉は、私が今までに耳にした中で最も説得力があると同時に、落ち着いて出口を示してくれる稀有なものだった。

その彼女の新作がこの本で、「エコロジー不安神経症」というか、別の言葉でソラスタルジアと呼ばれる現象に注目して、そこからどう回復するか、「病んで傷んだ世界で平穏に生きる」道を示してくれている。

ソラスタルジア(ソラスタルジー)は過去を懐かしむノスタルジーと結びつく新語なのだけれど、実はもう1975年のアーネスト・カレンバックの『エコトピア』から続いている概念だ。「環境と人間が完璧に調和していた」「ユートピア」を標榜する動きらしい。若いころに訪ねて行った「ヤマギシ会」のことも思い出すけれど、要するに、ニューエイジの頃から一部でずっと続いている自然回帰と「真の幸福」を重ねる運動だ。

いや、そのルーツはもっと古くて、パリ生まれのMirra Alfassa という人(1916 年から4年間も日本に滞在している)がインドのSri Aurobindoとともに、Aurovilleという「理想の村」を立ち上げてそこの「慈母」として敬愛されたなどのいろいろな歴史がある。
ここで詳しく紹介しないが、一昔前は一部の「変人」に率いられたカルト臭の強かった「エコロジー」原理主義が、21世紀になって、「大声」で地球の環境破壊と人類消滅の警鐘を鳴らす「主流」に躍り出たのは事実だ。

環境汚染を自覚し、エネルギー政策や成長路線を修正し、次の世代のために今すぐに何とか努力すべきだというのは正論だし、よく分かる。そのためにひとりひとりが新しい習慣を身に着けるというのも分かる。実際、私もそうしている。
でも、一人一人の自覚を促し、自然を守り、軌道を修正するという動きが、「そうしないと何年後にはやがて…」という恐怖とセットになっているのはやりきれない。
実際、そのせいで、ソラスタルジアと呼ばれる不安神経症が「文明社会」で静かに進行しているというのだ。
コロナ対策で「高齢者を守るため」というのと、環境問題で「次の世代を守るため」というのは、「罪悪感と責任感」を組み合わせて迫ってくる。

これは明らかに、「不健康」な状態だ。病気や障害などがないとか「すぐには死なない」ことだけが「健康」ではない。「コロナに感染しない」ことが即「健康」であるわけでないのと同じだ。

明らかに病んだ社会、生き難さを抱えて鬱状態へと閉じこもったり他者への暴力に向かったりする人々は、「ウィルス・ゼロ」だとか「環境保全」「クリーンエネルギー」「絶滅危惧種の救済」などでは救えない。

アリス・デビオルのこの本を読んで、あらためてじっくりと考えてみたい。

(健康ブログを更新しています)




by mariastella | 2022-01-25 00:05 |
<< モリエール生誕400年 改宗の話 >>



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
以前の記事
2026年 01月
2025年 12月
2025年 11月
2025年 10月
2025年 09月
2025年 08月
2025年 07月
2025年 06月
2025年 05月
2025年 04月
2025年 03月
2025年 02月
2025年 01月
2024年 12月
2024年 11月
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
カテゴリ
検索
タグ
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧