エマニュエル・トッドの回顧
この2年、Zoomやリモートはほとんどしないけれど、ネットにあげられる講演やインタビュー記録をよく視聴するようになった。
先日エマニュエル・トッドの「コロナ前」の、長時間インタビューをつい聞いてしまった。 私はこの人の意見に異論を持っている。彼がなぜか日本好きで、日本で人気で、日本の雑誌などにもよく寄稿しているのを見ても、いつも違和感を持っている。 彼は私と同年代で、国際的キャリアを持つが、アングロサクソン寄りの思考タイプだし、彼の分類する欧米と日本の分析の単純さにも疑問を持っている。核抑止力についてのスタンスももちろん賛同できない。彼の「上から目線風のかいかぶり」日本論も「傾聴」する気はしない。 でも、このインタビューを聞いて、彼が自分の生まれた恵まれた環境について語っている部分に、突然、懐かしい思いがわきおこった。 彼の母方の祖父に当たるのは『アデン・アラビア』のポール・ニザンで、この本は中学生だった15歳の私の愛読書だったからだ。(しかも、当時、ある賞をもらったので新聞社の取材が中学のクラスにやってきて、インタビューされた時、私は好きな本としてこの本を挙げていた。記事の中でそれだけが記憶にある。) その後、もちろん、『トロイの木馬』『アントワーヌ・ブロワイエ』『陰謀』などを次々と読んだ。(翻訳で) 一番印象的で、後にフランスで生活するようになってから最も参考になったのが『陰謀』だ。 ボーヴォワールの『娘時代』や『女ざかり』などは『アデン・アラビア』より先に読んでいた。それでパリの学生生活やエコール・ノルマルの哲学専攻のエリートたちの交流を想像できていた。中学の頃にサルトルとボーヴォワールが日本に来て、二人の関係が有名になったので、彼女の自伝にもさらに現実感と親近感を覚えていたものだ。 それを覆したのがニザンの『陰謀』だ。 エコール・ノルマル受験予備クラスのリセであるルイ・ルグランのクラスを含めた、学生たちの間のエリート意識の差、差異化の感情、マウントなどがすごくリアルでショックを受けたのだ。 サルトルらとニザンの決定的な亀裂も理解した。 それにしても、今回、はじめて長時間インタビューを通してエマニュエル・トッドが話すのを聞いて、彼が自分のキャリアを回顧する姿を見て、私も「時の流れ」を遡ってしまった。 私とトッドが同年だということは、ポール・ニザンって、私の祖父母と同年代だったわけだ。 そしてニザンは今の私やトッドの年齢の半分というたった35歳の若さで死んでいる。 15歳の私の目には、来日したサルトルやボーヴォワールが「同時代人」に見えたが、彼らも私の祖父母と同年代だったわけだ。 そして、15 歳の私が、『アデン・アラビア』のあの有名な「僕は20歳だった。それが人生で一番美しい年などと誰にも言わせない」« J'avais 20 ans et je ne laisserai personne dire que c'est le plus bel âge de la vie »というフレーズに感動していたわけだ。 有名な「アンガージュマン」という言葉と日本の学生運動の関係もなつかしい。 サルトルやボーヴォワールはニザンの倍以上長生きしたし、録音や録画されている資料もたくさん残っている。だから、私がフランスに住んでフランス語で理解できるようになってからの彼らの肉声とはなじみがある。 彼らと「共産党」の関係や文化大革命やパレスティナ問題についての彼らの言葉や姿も追ってきた。 この3年前のビデオでトッドが、自分の来た道を回顧的、俯瞰的に語っているのを見て、ニザンがもし長生きしていたら、どんな「総括」をしたんだろう、とあらためて感慨を覚える。 (ニザンの後に出会った私のヒーローは、同じくエコール・ノルマル哲学科エリートのレジス・ドブレで、『アデンアラビア』の翌年に出版された『革命の中の革命』に魅せられた。でも今考えると、ニザンと違って、彼は当時20代で、私と10歳ちょっとしか違わなかったわけだ。彼は長生きして今も存命で、フランスに来てからは「同時代」の信頼できる思想家としてずっと読み続けている。) トッドのインタビューです。フランス語OKな人はどうぞ。
by mariastella
| 2022-02-05 00:05
| フランス
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