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L'art de croire             竹下節子ブログ

ムッソリーニというミステリー

マウリツィオ・セラ(イタリアの外交官で、フランス語でも著作し、アカデミー・フランセーズの会員でもある)の『ムッソリーニのミステリー』という大著が出た。
ムッソリーニというミステリー_c0175451_16595160.png
この表紙のムッソリーニのインパクトだけでも驚いた。
戦後生まれの世代は、ヒットラーやナチスの「悪魔の所業」ばかり刷り込まれていて、妻と共に縛り首になったムッソリーニの方の方にはあまり注意が向けられていなかった。
しかも、ヒットラーと言えばちょび髭やチャップリンの『独裁者』のイメージによって、堂々としたアーリア人種の男というより、誇大妄想の道化というのが最初の印象だった。(それはどんどん変わっていくのだが)

一方、ムッソリーニは、なんとなくラテンっぽい印象のヒトラーとは逆で、堂々とした体躯のスポーツマンで、今のプーチンのようにそれを誇示した。

ムッソリーニは1909-1911にスイスに滞在して国際的な貴族のソシアリストたちと交流した体験もあり、インターナショナルな感性のある人だった。自国では独裁者になっても国際紛争の調停の能力があると信じていた。

外敵にはマッチョな支配者だったが、内面はいつも自問し続ける孤独な人だった。
スターリンやヒットラーは、凋落した最後の局面でも、最後まで寄り添う忠実な信者ともいえるグループに囲まれていたけれど、ムッソリーニは完全に孤独だった。

ムッソリーニとヒットラーの関係、ナチスに対抗して第一次世界大戦のように英仏と組もうとしたのに、エチオピア戦争で英仏、国際連盟から弾劾された。やはり国際連盟を離脱したドイツと日本と組むことになったのだ。
そもそもエチオピア戦争は、近代国家として遅れて出発したイタリアが、アフリカ大陸に拠点を置くことで英仏とのバランスを取ろうとした植民地戦争だ。それを糾弾したのは、すでにアフリカを制覇していた英仏という二大帝国主義の「先輩」たちだった。(同じくアフリカに利権のあるベルギーもイタリアを糾弾した。)

イタリアは結果としてドイツの衛星国のような状態に追い込まれた。
国王との関係ももちろんある。北イタリアと南では全く地政学的性格が違うこともある。
反ユダヤ主義政策も、ナチスとは関係なく始まった。すでにドイツやオーストリアから多くのユダヤ人がイタリアに亡命してきていた。政局が危機に陥った時、内なる敵を作り上げてスケープゴートにするための政治的判断として彼らが選ばれたのだ。

その他、そもそも第一次世界大戦のパリ会議だの、いやもっとさかのぼってナポレオン後のウィーン会議でも、ヨーロッパの「体制」づくりはいつもエリートによるエリートのためだった。それに対して、極左も極右も、ポピュリズムも民主主義も、「民衆」をベースにしてからブルジョワジーを取り込むという点で共通している。ムッソリーニもハト派社会主義者として出発したのだ。

これらのことはこの著者インタビューを聞けばよく分かる。(著者自身が、あまり話してしまうと本を読んでもらえなくなる、と心配している。実際、私も本を購入する予定はない)




こういうイタリアとドイツと日本がよくも三国同盟を結んだなあ、と思うと、あらためて感慨を覚える。このブログでも、二つの大戦の間の時代の推移やヒットラーについても今までいろいろ書いてきた。でもフランスからの視点のバイアスも当然ある。

英仏の信じられないような傲慢さは、公平に歴史を見ると明らかだ。

でも、マウリツィオ・セラは、ファシズムやナチズムが21世紀に再燃しているように語ることは間違っているという。ファシズムとナチズムは「終わった」。歴史の目で総括するべきものだ。今の世界で犯罪者やら過激派やら差別主義者が自らネオナチを名乗ったり、メディアが手軽にレッテル貼りをすることで、「今起きている問題」の本質を看過してはならない。

「歴史は繰り返す」などと言っている場合ではない。


by mariastella | 2022-02-12 00:05 | 歴史
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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