ルネサンスの天才ジョヴァンニ・ピコ・デラ・ミランドラ その1アントワーヌ・フェーヴル(Antoine Faivre)さんが昨年末に亡くなったのを最近知った。 なつかしい。1980年代から10年ほど、ソルボンヌ内の高等研究所でいくつかの講義を受けていたが、彼の「エゾテリズム史」に一番長く出席していた。 ネットで検索したら、有神論フリーメイスンのメンバーだったとある。なるほど、いろいろ思い当たることがある。 なぜ彼の消息を知ったかというと、今、ピコ・デラ・ミランドラのことをいろいろ調べていて、このピコについてはじめて解説してもらったのがフェーヴルさんの授業だったからだ。もっとも、講義のテーマであるネオプラトニズムについては、ピコより30年も年長でピコより長く生きたマルシリオ・フィチーノの方がはるかに重要で頻繁に分析された。けれども、フィチーニについては、ずっとマルセル・フィサンというフランス語読みで語られていたから、私の中でもマルセル・フィサンで定着しているけれど、ピコの方はなぜかピコ・デラ・ミランドラというイタリア読みのままだったので印象的だった。 (フランスに来て初めの頃は、ギリシャ・ローマの思想家、哲学者らの名前が全部フランス語読みなので、一瞬分からなかったことが何度もあった。日本では一応「現地読みカタカナ」で記憶していたからだ。それでもRとL を区別していなかったから、ソクラテスやアリストテレスのようなビッグネームでさえ、フランス語読みで引用する時に自信がなかった時期もある。) いまにして思うと彗星のように去ったピコ・デラ・ミランドラは、私の基準ではフィチーノよりも神学や哲学の本質に迫った真のルネサンス人だと思う。ルネサンス実存主義とも言える。 ピコとサルトルを比較する論文を最近読んでなるほどだと思った。 それにしても彼の早熟ぶりはすごい。 重要人物で多くの著作を残しているというのに、ピコがなんと31歳で死んでいる(毒殺されたという説もある)ことにも最近気づいて驚いた。
1463年にイタリアのミランドラの裕福な貴族ピコ家に生まれた。ルネサンスの教育としてまずギリシャ語とラテン語、古代の哲学と文学を学ぶ。いわゆる教養のためではなく、人間の属性を明らかにし、ユマニストとしてのモラルを身につけるためだった。それが当時の貴族の意識だった。母親は敬虔なカトリックで、息子のジョヴァンニを聖職者にするために、必修である教会法と神学を修めるためにボローニャに送り出した。この時わずか14歳。すべてを1年で学び、理解し、記憶できたピコ(ジョヴァンニのこと)は、その能力を厖大な文学、科学、哲学、宗教事象の統合に振り向けようと決心した。 15歳の時に母親が死んだのでボローニャを去って、より広い世界を学際的に見て、パガニズムとキリスト教との間に新しい意味を探ろうと、各地を旅行した。フィレンツェでは多くのユマニストと親交を結ぶ。フェラーラを経て、17歳から19歳の間に滞在したパドゥワでヘブライ語とアラビア語を習得し、一神教の聖典をすべて原語で読んだ。アヴェロエスにも傾倒する。 21歳でフィレンツェに戻った時にフィチーノに出会い、ネオプラトニズムを修得。哲学や理性は宗教や信仰の従属物ではないという信念のもと、宗教や哲学におけるセクタリズムを否定し、相対主義的視点から、「折衷」から「統合」を模索した。ありとあらゆる仮説の検討を重ねた。 (彼の思想的道程は興味深いのでこの後も覚書のために少し続けるつもりだ。)
ここまででも、この早熟な天才が、このような自由で特権的な知的遍歴ができた社会的・歴史的な背景自体に感慨を覚える。 イタリアの裕福な貴族の出という一点で、貴族のネットワークとカトリック教会のネットワーク、つまり当時の知のネットワークを自在に使うことができたからだ。もとより、金を稼ぐ必要もないし、地位や名声を得る必要もない。無駄なレトリックで自分を守ったり大きく見せたりする必要もなく、「本質」だけを追うことができる、という目くるめく自由を得た天才の生き方は痛快だ。(しかも美青年でバイセクシュアルで、男からも女からももてたという) (続く)
by mariastella
| 2022-02-19 00:05
| スピリチュアル
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