ルネサンスの天才 ピコ・デラ・ミランドラ その4
(続きです。)
ピコの第二の人生は1488年、25歳でフィレンツェに戻った時にスタートした。 より思索的で、よりキリストのエスプリへと近づいた。 プラトンとの関係をより形而上学的にアプローチし、サンマルコ修道院で瞑想と著作に集中した。 この期間に、哲学面で3つの重要著作を残している。1489年に聖書の思索的注釈「Heptaplus」、1491年に「De Ente et uno(存在と単一原理)」で、神という唯一存在とその被創造物の多様性の関係についてアリストテレスに倣った形而上的な考察をした。(宇宙は、神と天使からなる霊的世界、10層の天界における天体の世界、その最後のものが宇宙を動かし、地上の生物に影響を与える、などだ。) 最晩年の1492年から94年にかけては、科学的見地から占星術を批判する「Disputationes adversus astrologiam divinatricem」を著した。 これがマルシリオ・フィチーニとの決定的な違いだ。 ピコは、大宇宙(マクロコスモス)と人間という小宇宙(ミクロコスモス)は対応し呼応し合っていて星座が個々人に影響するという仮説には何らの科学的正当性もエビデンスもないとした。星座の位置や動きによって人の運命が左右されるなど、人間の自由というピコの根本的な倫理観にも反している。 ピコの生活態度に関しては、ドミニコ会士のサヴォナローラの影響で、自由で折衷的な考えからより正統的なキリスト教へと向っていったとされる。 死の1年前には全財産を貧者に寄付している。(30歳だから死を予感していたわけではない。清貧を決意したわけだ) 1493年、彼の命題を異端としたイノケンティウス8世の次の教皇(1492年就任)であるアレクサンデル6世がピコの異端宣告を取り消した。ピコはその翌年に死に(毒殺とされる)、フィレンツェの大聖堂サンタ・マリア・デル・フィオーレで行われた葬儀ミサではサヴォナローラが説教した。このサヴォナローラは、その4年後に火刑台で焼かれた。 このピコの生涯を今こうして概観すると、私が1980年代に学んでいたエゾテリズム史で受けたイメージとはかけはなれている。 フィチーニの存在が大きすぎて、フィチーニと重ねて考えていたのだけれど、わずか31歳の生涯でこれほどの足跡を残した天才だったわけだ。しかも、カバラやネオプラトニズム、エゾテリズムと近くにいながら、敬虔かつ、科学的合理的な精神の持ち主だった。 ピコの批判にもかかわらず、生まれた時の星座の位置を基盤に性格やら未来やらを語る占星術は、この後も大きな影響を与え続けた。あのノストラダムスは、ピコの死の10年後の1503年に生まれている。(フィチーニは1499 年に66歳で没) それにしても、驚くのは、ユダヤ教もキリスト教も(仏教も)、占星術や降霊術や魔術などを禁じているのに、「予言」はいつも人々を魅了したし、時には支配者のツールとしても使われてきたという事実だ。 そもそも、21世紀の今でさえ、星座を構成する星の地球からの距離がまったくばらばらであることも知られているというのに、「占星術」やあらゆるタイプの星占いが普通に拡散している現実がある。科学的根拠や、予言の検証など誰も気にしていない。今日の運勢、今週の運勢、今月の運勢を「星座別」に教えてくれる日刊紙、週刊誌、月刊誌は少なくない。 私自身も、星座占いを目にする度に読んでしまうし、そこで「健康運」が低迷だとコロナ感染などが心配になるし、「免疫力高し」などとあると安心したりする。あるいは、ネガティヴな言葉は非科学的だと無視し、ポジティヴだと何となく力をもらったりもする。 「ノストラダムスの大予言」によって20世紀末の終末観を煽られてきた世代が、宗教も文化も異なる日本にすら存在した。コロナ禍でも、科学的に確実な根拠もないのに「このままいくと、大惨事が」のような恐怖を煽る言辞が実際に機能した。 宗教離れが広がり、神仏に祈る人も少なくなったというのに、人が「占い」を相変わらず必要としているのは何を物語っているのだろう。おそらく誰も各種星占いを本気で信じているわけではないだろう。実際、同じ週の違う雑誌で、まったく逆のことが書かれていることだってある。 私たちは、「信頼もしていないもの」を必要としているわけなのだろうか。 神のみ旨だとか死後の世界だとかはとても信じられないと言って顧みない人が、星占いや十二支占いを読むのはなぜだろう。 ピコが「信頼していたもの」を本気で知りたい。 -------------------- このシリーズはここで終わりです。 参考にしたのはHenri Pena-Ruiz による「Pic de la Mirandole: humanisme et christianisme」(Franc-Maçonnerie Magazine No 84, p36~43)です。 (この著者はピコのユマニズムを継承したフランス式政教分離ライシテの専門家だ。宗教や無神論や不可知論を嫌うことは罪ではない、宗教者、信者、無神論者など人を差別するのが罪であると言ったことで、差別主義者だと批判されたことがある。)
by mariastella
| 2022-02-24 00:05
| 哲学
|
以前の記事
2026年 02月
2026年 01月 2025年 12月 2025年 11月 2025年 10月 2025年 09月 2025年 08月 2025年 07月 2025年 06月 2025年 05月 2025年 04月 2025年 03月 2025年 02月 2025年 01月 2024年 12月 2024年 11月 2024年 10月 2024年 09月 2024年 08月 2024年 07月 2024年 06月 2024年 05月 2024年 04月 2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月
カテゴリ
全体
雑感 宗教 フランス語 音楽 演劇 アート 踊り 猫 フランス 本 映画 哲学 陰謀論と終末論 お知らせ フェミニズム つぶやき フリーメイスン 歴史 ジャンヌ・ダルク スピリチュアル マックス・ジャコブ 死生観 沖縄 時事 ムッシュー・ムーシュ 人生 思い出 教育 グルメ 自然 カナダ 日本 福音書歴史学 パリのオリパラ 人生観 未分類
検索
タグ
フランス(1350)
時事(800) 宗教(709) カトリック(634) 歴史(427) 本(309) アート(250) 政治(222) 映画(178) 音楽(153) 哲学(113) フランス映画(106) 日本(99) フランス語(94) コロナ(85) 死生観(63) 猫(56) フェミニズム(49) エコロジー(48) カナダ(40)
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||