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L'art de croire             竹下節子ブログ

フランスから見たウクライナ危機のいろいろ  続き

これを書いているのはフランス時間3/5の夜。

あまりウクライナ危機のニュースを見ないようにしている。少なくとも映像では。

悪夢の種になるから戦争映画を観ないことにしているのに、ここのところウクライナの爆撃シーンなどばかり見せられたせいで、夢の中でビルの爆破シーンがでてきてしまった。

だからラジオか文章を優先することにしている。


少しずつメモしているのだけれど、それが役に立つと言ってくれる人もいるようなので、またここに書きとめることにする。


まず、今のEU委員会委員長(議長はマクロン)のウルズラ・・フォン・デア・ライエンが、ウクライナ支援のために武器を「購入」すると言ったことについては前にもふれたが、彼女がドイツ人であることの意味だ。

医師であり、7人の子の母である彼女は、ドイツで、はじめは家族、子供、青年などを担当する大臣だったが、2013年にはドイツでは初の女性の国防大臣に就任している。2018年の第4次メルケル内閣でも国防大臣。

ドイツはもともと領邦国家で、連邦制マインドがある。中央集権的でユニヴァーサリズム標榜のフランスとは逆だ。彼女が主導で「武器を買う」(米国系軍産多国籍企業から?)と決める流れにフランスではすでに異論を唱えている向きもある。ドイツの自前の核、少なくともNATOのアメリカの核でなくEU自前の「核の傘」を標榜しているように見えるからだ。


もう一つ、今回はパラリンピック開催中ということで、ロシアとベルラーシの選手の参加が禁止されたが、今年の11月から12月にかけてカタールで開催されるッカーのワールドカップについては誰も何も言わないダブルスタンダードはどうなのだということも語られ始めた。

カタール開催というチョイス自体もそうだが、スタジアム建設に向けてほとんど「奴隷労働」が導入されたのは公然の事実だ。 常連のサウジアラビアなども、人権に関する国連の基準などから問題視されてもおかしくないはずだ。金があったり資源があったり、政治的経済的利害が一致していれば。モラルや人権など関係ない、という例だ。


次に、世界各地でのプーチンやロシアに対する抗議行動のニュースだが、チェコにおけるロシアへの抗議の激しさは、冷戦時代のチェコ動乱を思うと納得できる。

その反対に、ベオグラードにおけるロシアを「支持」するデモの激しさには胸が痛む。テニスのジョコビッチが言っていたように、コソボ紛争でのNATOによるセルビアへの空爆を彼らは忘れてはいない。あの時点で、国連軍ではなくどういう正当性をもって NATOが参加したのかは今でも納得できないというのは分かる。(結局コソボは今もセルビアからもロシアからも国として承認されていない。) そして、NATOが3ヶ月も空爆を続け、以後何年も介入してきたことについて、フランスでは当時、大きな抗議行動にはつながらなかった。


最後に、フランス人の何組かの夫婦がウクライナからフランスへ脱出しようとしている話題だが、いずれも生後数日という新生児を連れている。フランスではまだ代理出産が認められていないので、それが可能で、しかも安価なウクライナで代理母を探す人たちがいるわけだ。子供が生まれる時がこのロシア侵攻と重なるなどまさに想定外だったろうが、フランス人の母親は出産をしていないから元気でしかも赤ん坊を得た喜びで生き生きとしている。中には、出産したばかりの代理母をウクライナに残して縁を切るのでなくフランスで保護すると言っている人もいるようだ。


戦争、理不尽に奪われる命や、こんな時期にこんな状況で生まれる新しい命、思いは尽きない。


(最後に、「徹底抗戦」やら「経済制裁」が果たして最善の選択なのか個人的にはまったく分からないということ。このブログに書いたと思って検索したが出てこなかったので、出典がはっきりしないのだけれど、「近代戦」において圧倒的に軍事力に勝る相手には被害が広がる前に「無条件降伏」して、余力を被占領後の治安維持に注入するのが一番被害が少ないという説がある。日本の竹槍作戦とか、沖縄戦の悲劇を見ても、「白旗を上げる」ことが、敵味方を問わず最も人命の犠牲が少なくて済む、というのは事実だろう。今回のウクライナ戦を見ても、ウクライナ軍や義勇兵が最終的にロシア軍に勝つという可能性はゼロなわけで、「降伏」しなければ被害は広がるばかりであるのは自明だ。そして、対抗する「経済制裁」というのも、今のような経済のグローバル世界でそんなことをすれば、世界中の「庶民」の暮らしを圧迫するわけで、各国の経済政策もガタガタになる。もちろん一部のエリート「カースト」があって、彼らの利権には有利でしかないのだろうが。

いつも考えさせられるのがまさに第二次大戦でのフランスのとった道だ。第一次世界大戦の英雄だったペタン元帥が、第二次大戦初期の戦況を見て、これ以上被害を広げないようにと、いわば戦略的降伏に踏み切った。パリを明け渡して親独ヴィシィ政権を作ったわけだ。

そのおかげで、フランスは少なくとも見かけの平和を得た。その後でフランスの多くの都市が焼け野原になり多くの市民の犠牲を出したのは、ほぼすべて連合軍による絨毯爆撃によるものだった。

その連合軍というのはほぼ米軍であり、その中にドゴール将軍の自由フランスが加わっていたおかげで、フランスは「連合国」「戦勝国」という地位を得た。そのやり方は結果的に正解で、ヴィシィ政権はみな親ナチスのコラボとして弾劾され、ナチス占領下の地域で何とか生き延びた「普通の人」もコラボとしてリンチされるなどした。

長いスパンで見ると、何が「正解」なのか分からない。

でも究極の「価値」は一人一人の人間の尊厳であり、相対的強者が相対的弱者を攻撃したり支配したりするのは「正義」ではない、数の問題ではない、ということだけはいつも肝に銘じておきたい。)





by mariastella | 2022-03-07 00:05 | 時事
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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