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L'art de croire             竹下節子ブログ

「パリのどこかで、あなたと」Deux moi セドリック・クラピッシユ

3 月末にTVで初放映されていたのを視聴した。
原題と邦題がかけ離れている典型。
パリを舞台にしたロマンチックなラブストーリーというイメージだが、原題は「私がふたつ」というか、他者との関係性を築けない孤独な生き難さを抱えた別々の「私」をパラレルに描いている。すぐ隣に住んでいるとか、同じ猫を飼ったとか、互いがカウンセラーを受けている年配の心理療法士と女性の精神分析医とが家族らしいなどの共通点があって、最後にようやく出会いへと収束していくような終わり方だ。
コロナ禍以前の撮影で、日本での公開が2020年末で、人と人の触れ合いについて皆が不全感と不安を抱いていた頃なので、印象が強かったようだ。
家族の集まりでのチークキスの連発など、確かに今はもう見かけなくなった。

うまくできているのは、隣同士の建物で同じレベルの階に住んでいるのだけれど、建物は違うので、出入り口や廊下、階段、エレベーターなどで顔を合わせることがないから、「隣人」だという意識がない設定だ。バルコニーの構造も違うし、高さも微妙に違っている。それでも二つの建物がくっついて建っているのはパリでは普通にあるケースだ。
18区や19区、あるいは北駅界隈は、Boboと呼ばれるブルジョワ自由人が移民や外国人たちと普通に共存している地区で、多様性のリアルがよく分かる。
フランスは精神安定剤の処方がヨーロッパでもっとも多いと言われていて、私の親しい友人たちも仕事に疲れたりストレスがたまると普通に心理療法士や精神分析医のところに通っている。私の生徒にも心理療法士がいる。

ルネ・ル・カルムという女優さんは、74歳でクラピッシュの映画に出演したのがデビューでこれがクラピッシュ映画の6本目だそうでクレーム電話をかける100 歳の老婆役で出演している。この映画の撮影が終わって半年後に、封切りを見ないで100歳で亡くなったそうだ。
監督も心理療法士宅のパーティに顔出ししている。
メラニー役のアナ・ジラルドはぴったりはまり役だが、ルネ役のフィリップ・シビルは、健康で「陽」のタイプなので、トラウマがあって自信のない役とのずれかえっていい効果を出している。彼の学校時代の友人役でルネ・ニネィが出演しているが、「先生が言ったこと覚えている? 来週試験をやります。木曜、火曜。えっ、どちらかって?
木曜、火曜」という思い出話をしている。「木曜」Jeudiでなく「私は言う」Je disと先生は言ったわけで、je dis, mardi.を生徒たちが聞き間違えたというわけだ。日本語の字幕ではどうなっていたのかなあと興味がある。

庶民の等身大のリアルなパリでありながら、SNS時代の都会の孤独な若者の生態という私の世代にとっては身近ではない現実をのぞき見したようで、なるほどなあと思った。
「出会いがない」と内にこもって、心理療法士に助けを求めたり出会い系サイトに頼ったりしていても、実は毎日の生活の中で様々なリアルな出会いがあって、その小さな関係性を忘れずに、大切にして築いていくのが人間なのだと、だんだんわかってくる。トラウマも忘れなくとも、それが重荷にならないように生きていかなければならない。自分に自信をもって自分を愛せなければ他者との愛も育めない、など、まあお決まりのアドバイスの連発なのだけれど、主人公の2人の演技が実にうまいので、自然に受け入れられた。大きな盛り上がりはないのだけれど、2人の主人公が時にすぐ近くにいながら、別々のやり方で生き難さから解放されていくのが短いシークエンスで並べて描かれるので飽きなかった。カメラワークや照明もよくできている。

(そういえば前に見たクラピッシュの映画もTVだった。)



by mariastella | 2022-05-30 00:05 | 映画
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