ナチスドイツの「ユダヤ人狩り」に先立って、すべてのユダヤ人の服の胸に黄色いダビデの星のマークが縫い付けられるように義務付けられたことは有名だ。
でも、それが「ユダヤ人狩り」の目印だったことは、その後の展開を知っているからこそ言えることで、当時はそこまで認識されていなかったのは当然だ。
ダビデの星はユダヤ人の徽章としてヨーロッパの王が「下賜」したものだという歴史もあるらしく、民族的アイデンティティのシンボルなのだ。
だから、悪名高いナチスのダビデの星が、「買い取り制」だったことを最近知って驚いた。強制なのだから配布されたのだと漠然と思っていた。
ユダヤ人は、自分たちがつける「官製ダビデの星」を買わなくてはならなかったのだ。
勿論それに反発した人もいたし、パロディの文句を書いた手製の星をつけていた人もいた。(まったく次元が違うけれど、フランスでコロナ禍でのマスク着用が罰金付きの義務となった時期、いろいろな工夫をして、ウィルス予防にあまり効果のなさそうなパロディ・マスクをつけていた人たちがいたのを思い出す。)
結果的にはそれは、ナチスによるユダヤ人狩りのかっこうの指標になったわけだ。
(というより、当初からそのつもりで義務化されたのだろうが、まさかそこまでとは想像したユダヤ人はいなかった。)
そればかりか、ダビデの星は正三角形二つの組み合わせだから、その三角形の一つを色分けすることによって、同性愛者、知的障碍者、反ナチス、エホバの証人、その他さまざまな「罪状」が一目で分かる仕組みになっていた。
初期に、星をつけることで差別の対象になったことはいうまでもない。
ある女性生存者は、ダビデの星のせいで道で石を投げられたり、冬には雪玉を投げられ足りしたことを覚えている。道行く人はそれを注意しようともせず、彼女をかばう人は誰もいなかった。
彼女はアウシュビッツの生還者だが、人生での一番つらい時期は、初期の街中での集団によるいじめの体験であって、アウシュビッツでは、自分と同じ星をつけた人に囲まれて過ごせてやっとほっとした、と述べている。
差別、アイデンティティ、少数者への暴力、いろいろなことを考えさせられる。