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L'art de croire             竹下節子ブログ

仏大統領選第一回投票とウクライナと枝の日曜日

(以下は予定稿として入れたものですが、この記事のすぐ前に、前日の2回目の記事としてこの投票結果についての感想記事を追加しています。)


4/10、前回の大統領選挙より半月早まった第一回投票が行われた。


結果は、5年前と同じく、マクロンとルペン女史との決選投票となった。

(10%以下の得票では唯一の「親日」家のペクレスの政治生命も怪しくなると危惧していたが、なんと5%以下で、第五共和制をリードしてきた保守政党の存続すらあやしくなった。結局、グローバル志向のリベラルとナショナルの分断という構図だが、黄色いベスト運動、コロナ、ウクライナという変数がどう影響するのか、なんだか予断ができない混迷すらある。)


前回の、5年前、2017年と言えば、私がブログを毎日更新するようになった後なので、それこそ毎日のようにマクロン現象について書いていた。あれから5年、「右も左も」と唱えながら、まず「資本家優遇」策からスタートさせたことで黄色いベスト運動が勃発し、次にコロナ、最後がウクライナ、と思いもかけない激動の時代となった。

思えば、5年前にマクロンが大統領に選出された後すぐに、プーチンとの出会いがあった。今読み返すと興味深い。



今回のロシアのウクライナ侵攻で、プーチンに応援されていたルペン女史は焦ったけれど、自分はロシアとの関係は大切だと思っている、プーチンではなくロシアだ、と強調していた。

「保守右派=普通化」を狙ったルペン女史に変わって極右の受け皿となったエリック・ゼムールに至っては、自分はロシアの栄光を取り戻そうとしているプーチンを尊敬している、みたいなことを言ったことがあったので、ウクライナ問題でさらに焦ることになった。

ブチャの「虐殺」については、「ロシア軍がそんなことをするのは不思議ではない。彼らはいつも野蛮だった。ナポレオンがモスクワに侵攻する前に自らの手でモスクワに火をつけた」などと言っているのを聞いて笑えた。なるほどそう言われれば、略奪される前に自分たちで放火して廃墟にしておく、なんてなかなかの発想だ。


私は、今回のウクライナでの市民虐殺を「人道に反する罪」として徹底的に追及するのはいいことだと思う。

前にも書いたけれど、これまで、日本の広島長崎だろうと、ベトナムのソンミ村だろうと、カンボジアやミャンマーであろうと、イラクやリビアやシリアやアフガニスタンであろうと、「無差別攻撃」や「虐殺」されたのが「白人のキリスト教徒」でなければ、結局「人類」や「人道」のカテゴリーに入れてもらえずうやむやにされてきた。

今回初めて「白人のキリスト教徒」(スラブ人がそれなりの差別を受けていることや正教との違いは前にも書いた)が「虐殺」されたことで、「人類」「人道」に反する「罪」がようやく具体的に名指されるのはいい「前例」になると思う。


興味深いのは、ヨーロッパではもっぱら、虐殺を指揮したのはロシア軍といっても白人ではなくて、トルコ系やモンゴル系、満州系の部隊だったとして、「悪の指揮官」の名や顔までメディアにさらされていることだ。その人物の今の消息はもちろん分かっていない。そこに、「白人キリスト教徒」ではないロシア人が「白人キリスト教徒」であるウクライナ人を殺した、というバイアスがかけられている。

ブチャなどを占拠していたロシア軍による略奪や暴行がなかったとは言えない。けれどもその後に入ったネオナチ系のナショナリスト過激派が、ロシア軍の「コラボ」とみなされるロシア語話者やロシア系の住民を粛清したという説も不思議ではない。ナチスに占領されていたフランスが「解放後」に、「親ナチ」と見なされる住民たちにいっせいに牙をむいた歴史もある。「戦争」という「殺し合い」がベースにあるところでは、人の「尊厳」など消滅し、憎悪や嗜虐が渦巻く。国籍にも宗教にも関係がない。

でも、だからと言って「相対化」したり、ないことにしたり、ごまかしてきたりした過去と決別するためにも、今回の「白人キリスト教徒」の犠牲を無駄にせずに、「戦争犯罪」とは何か、「人道に反する罪」とは何か、しっかりと普遍化してほしいと思う。プーチンを「悪者」に仕立ててスケープゴートにすることで矮小化してはならない。あるいは、戦場で血に飢えた「ネオナチ」を「粛清」することですませるのであってはならない。加害者がだれであれ、「戦時下」の殺人が21世紀にきっちりと「罪」として可視化され裁かれること自体には意味がある。

ひどいのは、ロシアやウクライナ同様クレプトクラシーの国である「欧米」が一体どういう利権を増大させるつもりか知らないが、「制裁、制裁」と騒ぐことで、今、実際に、アフリカやペルーで小麦が調達できなくなり、飢饉が起こり、暴動が起こり始めていることだ。

その昔、アイスランドの火山爆発の影響の飢饉が、フランス革命の導火線に火をつけた。

グローバル化した世界で、ウクライナの紛争はたった40日で、アフリカの飢饉やペルーの暴動につながる。日本とヨーロッパの間で貨物の流通も停滞している。


この「制裁」やインフレでどこの富裕層がますます富裕になるのかは知らないけれど、慎ましく普通に暮らすこと、子供たちが外で安心して遊べる世界を望んでいる多くの人のために、幸い言論の自由のある国にいる私たち一人一人が、何をすべきかを考えていきたい。


この日は復活祭の聖週間の始まりで「枝の日曜日」だった。教会の前で柘植の枝を掲げて聖水をふりかけてもらおうと集まる信徒。

仏大統領選第一回投票とウクライナと枝の日曜日_c0175451_22383476.jpeg
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聖体櫃の周りのデコレーション。もとはイエスのエルサレム入城の時の「棕櫚の葉」だから、ここはさすがに「柘植の枝」ではない。
仏大統領選第一回投票とウクライナと枝の日曜日_c0175451_22391913.jpeg

説教や共同祈願でウクライナ支援のような言葉が出るのではないかと危惧していたけれど、共同祈願で「SNSなどに惑わされずに識別する力を持てますように」というのがあっただけで、好感が持てた。


去年の聖週間はコロナ禍で外出規制もあり、すべての劇場やホールが半年以上も閉鎖中だったから、教会でのライブが貴重だったことを思い出す。





by mariastella | 2022-04-12 00:05 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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