Q : でもどうしてドイツ人たちは、この神話をあそこまで受け入れたのでしょう。
A : 第一次世界大戦前にドイツ人は社会が覆るような現象を体験していました。1871年以来の40年間で、ドイツの人口は70%も増えたのです。(今の?)ナイジェリアと同じ率です。増えた人口は流動性が高く、社会の工業化に伴って都市地域へと流れていきました。その後の世界大戦です。2500万人の犠牲者を出しながら、壊滅的な結果に終わりました。そのような不条理の中で「喪」に服するのは不可能です。
ナチスは、ドイツ人に彼らの不幸の理由を明らかにしました。
「あなた方が苦しんでいるのは、あなた方に対する陰謀があるからだ。もう何千年も前からユダヤ人が全てを滅ぼそうと望んできたのだ。」と言い、ドイツ人の「再生」のためのプログラムを提示しました。メタファーではなく、生物学的にドイツ民族の敵をドイツ人の生命圏(espace vital)から一掃しようとしたのです。いったんそれが達成されればドイツ人は幸福の千年紀に参入するだろうと言いました。一方で当時のヨーロッパで主流だった人種論を強化しました。当時、レイシズムはイデオロギーではなくて科学だと言われ、フランスでも、ソルボンヌや自然史博物館で、「科学」としての人種優劣論が展開されていました。
つまり、ナチズムがドイツ人に大いに受け入れられたのは、このストーリーが、心理的だけではなく知的にも満足できるものだったからです。第一次大戦後の悲しみのどん底から彼らを引き上げてくれるストーリーでした。
Sekko : なるほど。「科学的」というキーワードがあったわけだ。思えば、「開国」後の日本で、欧米帝国主義諸国に対抗するために送られた視察団は、一神教的モデルを採用して、身分制を撤廃し「全ての日本人は天皇の赤子」とし、「天皇=建国の神」説の根拠を古代神話に求めた。でも、その時点で普通の日本人がそのような神話を求めていたかというわけではないし、内戦は別として他国からの侵略戦争で疲弊していたわけでもなかった。それ以来展開された「国粋主義」も情緒に訴えたとしても「科学的裏付け」など必要とされなかった。レイシズムに対してはもちろん「白人至上主義」を自らは適用できないのだから、それは同じアジア人に向かった。日本のように脱亜入欧、和魂洋才、富国強兵を達成できないで植民地化されていた「同胞」を能力的に劣るかのように差別して「解放してやる」という方向に向かったわけだ。
それにしても、今に至るまで、在日コリアンや「帰化」人への根強い差別が一部の日本人の間で持続しているのは何を反映しているのだろう。