モントリオールについて最初に訪ねたのはサン・ジョゼフ礼拝堂だ。
街の最高地点に建てられた大聖堂なのに、「礼拝堂、祈祷所」oratoireというタイトルになっているのは、アンドレ修道士が住んでいた小さな礼拝堂を拡大して一大巡礼地を囲い込んだような「別世界」を別に建てたからだ。
私がフランスに来て最初に読んだ「奇跡譚」にこのアンドレ修道士のものがあった。
彼が聖ヨセフ(カナダの守護聖人)に祈りながら祝別した聖油が多くの「奇跡」をもたらしたことで有名になった。
彼と奇跡の聖油については、『「弱い父」ヨセフ』(選書メチエ)の「不思議のヨセフ」の章に詳しく書いている。執筆時(2007)にはまだ福者だったけれど2010年に列聖された。
私はアンドレ修道士自身に「治癒」のカリスマがあったのだと思う。けれども彼はそれをいつも聖ヨセフに託していた。聖性の条件の一つでもある「謙遜」の徳なのだけれど、それが徹底して、ここではすべての感謝の奉納版が聖ヨセフに捧げられている。(アンドレ修道士亡きあとは、聖油に特別の効験があるとは思えないのだけれど、ともかくここの聖ヨセフの聖油は世界一有名な信心グッズの一つになっている。)
アンドレ修道士も列聖されたのだから、「聖アンドレ修道士の取次によって」願いがかなえられた、とされてもいいのに、一貫してイエスの養父ヨセフの影に隠れた。そのヨセフだって、聖人として神に取次をするという建前だから、まあ、何が「効いた」としてもいいのだろう。
実際、カトリック教会の巡礼地なのに、東京で言えば明治神宮や浅草寺やらのように、宗教の帰属や信心にかかわらず誰がどんな祈願をしてもいい場所になっていて、受験のシーズンには合格祈願に訪れる人がいっぱいだ。ここまでポピュラーで全方位行きになっているとは想像できなかった。
最寄りのメトロからモン・ロワイヤルを目指して歩く。モントリオールの道は広いし、車の数も少ない。
礼拝堂のドームが見えてくる。
でもまず、アンドレ修道士が晩年に暮らしたチャペルに。
不要になった松葉杖の束と共に感謝の奉納版がぎっしり。
祭壇の真ん中にイエスを抱くヨセフの聖父子像。
その下には、ヨセフの死を看取るマリアとイエスと天使。
聖油の便を抱えた聖アンドレ修道士。
彼の居室の再現。
窓からバジリカ聖堂である大礼拝堂が見える。
ルルドの「聖域」を全部中に囲い込んだような、テーマパークみたいな不思議な大聖堂だった。(続く)