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L'art de croire             竹下節子ブログ

ケベックの文明博物館  カナダ その18

ケベックシティで実は一番目を開かれたのが、旧港のそばにある近代的な「文明博物館」だった。ここでゆっくりとたどったケベックの初期の歴史は、今まで何となくアングロサクソン視点で刷り込まれてきた北米の歴史を複眼でみることを具体的に可能にしてくれた。この後で先住民居留地に宿泊したからこそ、いろいろなことが単なる好奇心や観光客の目でなく理解できた。
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ケベックの歴史だから、フランス・カトリックの品も充実している。
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今はファーストネーションズと呼ばれる先住民(この他にさらに北部の氷雪地帯のイヌイットもいる)との関係史についての資料、記録が充実していて、写真も撮ったけれど、ここでは要点だけ覚え書きしておく。

まず、一般の日本人は、アメリ・インディアンというと「西部劇」のようなものを連想するかもしれないし、トーテムポールなどが目に浮かぶかもしれないが、カナダ東部の先住民族はかなり事情が違う。トーテムポールもカナダ西部の先住民族でしか見られない。
北米に最初に上陸したフランス人が遭遇した先住民、遭遇の仕方はまったく違う。

前にも書いたけれど、中南米でタバコやコーヒーなどの嗜好品が労働力としての黒人奴隷の売買を経て一大産業となったのとは違って、ケベックは今よりもっと寒冷地だったから、労働力としての「黒人奴隷制」は存在しなかった。だから、「奴隷の子孫」をめぐる「人種差別」の感覚は今もない。(フランスの植民地でもカリブ海やインド洋では黒人労働力の需要があったのは言うまでもないが。)

先住民との力関係も寒冷地では異なる。
インフラのない「未開」民族を「動物」のように見下す余裕などはない。
イヌイット(カナダのエスキモー)のサバイバルのテクニックを必要とした。スノーシュー(かんじき)の作り方などは必須だ。そして狩猟と毛皮保存の技術も先住民族に頼るしかない。
フランスは特にユーロン(今はワンダケという原語でよばれる)族と協定を結んだ。
すでに、「毛皮」はヨーロッパへの商取引の対象になっていて、先住民にとって大切な「資源」だった。毛皮(特にカストール)を求めるために他の先住民の領土を侵略する部族もいる。特にイロコイ族は戦闘的だった。
ユーロン族は温和で、独自の民主主義文化を持っていて、早くからキリスト教化した。つまりフランス・カトリック化したということだ。宣教師や修道女たちのほとんどは本気で彼らの魂を救おうと思っただろうし、医療や教育に尽くした。

一方、フランス政府はユーロン族からの毛皮供給を独占し、その代わりにフランス軍がイロコイ族からユーロンを守るという協定を結んだのだった。
ところが、プロテスタントのオランダは、イロコイ族から毛皮を獲得するために、イロコイ族に銃器を提供した。こうして1640年に「毛皮戦争」が起こり、ユーロン族は命も土地も多くを失うことになった。
ユーロン族とフランス植民者の混血も進んだ。互いに「カトリック」であったこともあるが、イギリスとの戦争や疫病やなどで飢饉で孤児となったフランス人の子供たちを部族が養子として迎えたからだ。ユーロンは女系なので、養女たちは養母の家系を継いでいく。

もちろん歴史はどんどん複雑になっていくのだけれど、出発点におけるこの事情からだけでも、アングロサクソンの植民者が西部へと向かったり、スペイン系植民者が南米大陸の東部に向かったりした展開とはまったく違うことが分かるだろう。
しかも18世紀にはフランス軍はイギリス軍に敗れてカナダはイギリス帝国に包括された。フランスはアメリカの独立を助け、19世紀にはカナダでも米英戦争が起こるなど、英米仏の確執が続く。フランスとカトリックがまとめて憎悪の対象になった時代すらあった。

ここでカナダ史を概観するつもりはない。

けれども、先住民居留地に宿泊してフランス系の母を持つカトリックのユーロンの話を聞いたり、議会開催中のオタワに行った時がエリザベス女王在位70年の祝いの期間で通りに女王の肖像旗がずらりと並んでいるのを見たりしたので、アメリカという「新大陸」のルーツも含めていろいろ考えさせられた。

そして、やはり、ケベック。
もし、今の地球のどこかに、日系人がエリートとして住んでいて日本語を公用語とする国があり、「国家神道」の形をそのまま継承していると仮定したら、いったいどんな感じになるのだろう、などと想像さえしてしまった。

次はユーロン=ワンダケ族居留地(実際この居留地に住んでいるユーロン族は50%に満たないのだが)での異世界体験を紹介しよう。



by mariastella | 2022-07-08 00:05 | 歴史
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