エリザベス女王の死とフランス (追記あり)エリザベス女王が危篤から逝去したニュースは、時差がほとんどないフランスで聞いていた。 たった2日前にイギリスの新首相を任命したところだったから驚いたというのが当然ある。
フランスでしか聞けないリアクションは、やはりすぐに、ルイ16世がなぜ処刑されたか、という検証と、エリザベス女王もそれについてフランスで非公式にコメントしてしたというエピソード、戴冠式を経ずとも同時に国王となった「チャールズ三世」にちなんで、チャールズ二世は英仏のハーフだったとか、リチャード獅子心王はロンドンで戴冠式を行ったが「ここは雨が降り過ぎる」と言ってすぐにフランスに戻ったというような話。(追記 ちなみに、チャールズ二世は死の床でカトリックの洗礼を受けている。スチュワート王朝はとにかくカトリックとの距離が近いままだったので、結局ハノーヴァー王朝(その後はウィンザー)になったわけだが、例えば今スコットランドが独立してスチュワート王朝を復活させたとしたら、女系であるスチュワート王朝の現在の王位継承者はリヒテンシュタインの王女だとか。) ローマ法王のヨハネ=パウロ一世(最近列福された)が、即位式でそれまでの三重冠や輿を廃止して「近代化」し、「私たち」を「私」といったことが彼の急死につながった(守旧派に暗殺された?)、チャールズ三世も戴冠式を近代化すると危ない、人々は「旧態依然」を心の中で望んでいる、即位にまつわる聖油の塗油や按手の儀式はみなフランス王戴冠式のコピーだが今となってはその継承だから、大切にすべき、というのもあった。歴史や伝統は人々を安心させる、というもの。 ニュースチャンネルでは延々と特集があったが、厳粛というのから程遠く、イギリス人のコメンテーター(在フランスでフランス語でコメントするのだからフランス化しているのだろうが)まで、ある意味「不敬」なコメントを繰り出していて、亡くなったばかりの96歳(私の母が生きていたら同い年)の女性に対するリスペクトに欠けると感じるフランス人も少なくない。 それと対照的なのはフランス語でコメントしながら涙を浮かべんばかりで感無量という雰囲気のカナダ首相だ。 私はケベックで、何度も、エリザベス女王がいなくなったら、カナダはコモンウェルスから抜けるだろう、とか、すべてのカナダ紙幣にあるエリザベス女王の肖像がチャールズになるのは考えられない、とかいう言葉を耳にした。ケベックのリアクション、スコットランドやアイルランドのリアクションも比較したい。 それにしても、イギリスが一度も旧植民地に対して「謝罪」をしていないという事実にはあらためて驚かされる。 キャンセル・カルチャー何するものぞ。 スターリンと同じで、ナチスとの戦いに勝利したソ連、イギリスだからこそ「謝罪」が誰からも要求されないのは、原爆投下を「謝罪」しないアメリカと同じだろう。 エリザベス女王は英国国教会の首長だが、ローマ・カトリックから離脱後はじめて2014年にヴァティカンにフランシスコ教皇を訪ねた。(追記: 正確に言うと、1960年にヨハネ23世と会っているが、ヴァティカン訪問でなく「イタリア訪問」の枠で、その後1980年にもヨハネ=パウロ二世と会っている。それらの過程で、昔はカトリック教会と国教会が共に祈ることさえ禁止されていたのに、女王は諸教一致にも理解を示し、21世紀には、国教会の司教とカトリック教会の司教が共に教区の管轄にあたることもできるなど、「開かれた」関係になっている。その新しい関係を象徴する立場としてはじめて、これもローマ教会に新風を吹き込んだフランシスコ教皇を訪ねたということらしい。ヴァティカン以外の外交の場ではもちろん他の教皇とも会っている。) 教皇に会う時のドレスコードも適用されない。サッチャーの新自由主義では炭鉱労働者などが蒙った被害に胸を痛め、今もインフレの進む路線に反対だが、もちろん政治的なコメントは許されていない。
私は日本人だから、真っ先に連想したふたつのことがある。 ひとつは、10日後の女王の国葬は葬儀外交の最大のものとなるだろう、その数日後に安倍元首相の「国葬儀」とやらを決めた岸田政権は何とも間が悪く、あらゆる面でマイナスでしかないだろうということ。気の毒なくらいだ。 衝撃的な死とはいえ安倍元首相が亡くなって2ヶ月半も経ち、国際的なインパクトはもはやない上に、エリザベス女王の葬儀の壮大さなどの陰でもう政治的意義などなくなるのではないだろうか。岸田さんって、ついてない。 しかも、女王は政治的発言をしないからこそ「シンボル」となれるけれど、元首相は「桜を見る会」関係で国会質疑の中で118回も虚偽答弁をしたと衆院調査局が発表したというのだから。 イギリス王室に相当するのは日本では皇室ということになるが、これも第二次世界大戦での連合国と敗戦国でまったく立場が違う。イギリス王室は莫大な私有財産も持っているけれど、日本の皇室は敗戦でそれを剥奪されたし、何よりも、「人間宣言」をしたので、明治政府が苦労して作り上げた一神教モデルの「受肉した神」としての天皇像はくずれさったし、占領軍のアメリカン・モデルには「王さま」がいないし、皇室への「敬慕」は「国の政策」の優先事項ではなくなった。 それでも国際的プロトコルでは英国王室風、伝統儀式や葬儀や即位の着衣や小道具は万世一系風を残しているから、歴史の継承としては英王室と同じ役割を果たしている。 でも、「絶対に謝罪しない帝国」イギリスと、常に謝罪を要求される日本との差は大きい。
と、エリザベス女王の死の翌日、日本でのコメントには接していないけれど、とりあえずここにメモしておく。
エリザベス女王で検索して出てきた過去記事をいくつか貼っておく。
by mariastella
| 2022-09-10 00:05
| フランス
|
以前の記事
2026年 03月
2026年 02月 2026年 01月 2025年 12月 2025年 11月 2025年 10月 2025年 09月 2025年 08月 2025年 07月 2025年 06月 2025年 05月 2025年 04月 2025年 03月 2025年 02月 2025年 01月 2024年 12月 2024年 11月 2024年 10月 2024年 09月 2024年 08月 2024年 07月 2024年 06月 2024年 05月 2024年 04月 2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月
カテゴリ
全体
雑感 宗教 フランス語 音楽 演劇 アート 踊り 猫 フランス 本 映画 哲学 陰謀論と終末論 お知らせ フェミニズム つぶやき フリーメイスン 歴史 ジャンヌ・ダルク スピリチュアル マックス・ジャコブ 死生観 沖縄 時事 ムッシュー・ムーシュ 人生 思い出 教育 グルメ 自然 カナダ 日本 福音書歴史学 パリのオリパラ 人生観 未分類
検索
タグ
フランス(1362)
時事(805) 宗教(724) カトリック(651) 歴史(430) 本(310) アート(253) 政治(222) 映画(179) 音楽(155) 哲学(114) フランス映画(109) 日本(99) フランス語(95) コロナ(85) 死生観(63) 猫(56) フェミニズム(49) エコロジー(48) カナダ(40)
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||