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L'art de croire             竹下節子ブログ

女王の「威力」と日本人とフランス人

エリザベス女王が亡くなってから、いろいろな回顧番組が放映された。即位70年を機に用意されたものがたくさんあるからその再放送もある。

それを見て、はじめて、英国が植民地を手離した時に一度も「謝罪」せずにコモンウェルスに取り込んだり自分を女王のままに残したりできたのかがはじめて分かった気がする。

彼女は旧植民地が独立するたびに各国を回った。独立国のトップはすべて「男」のリーダーである。その新しいリーダーと並ぶ。まるでこれからはカップルで統治していくかのように。

最も印象的なのは、訪問が最もリスクが大きいと言われたアフリカのガーナだ。英領黄金海岸と呼ばれていたガーナはブラックアフリカ初の独立国で、 英連邦王国から共和制に移行したが、冷戦下でソ連と近づいていた。しかしそこに女王が訪問して、大統領と並び、夜には彼と触れあってダンスをした。

その写真が出回った。黒人の男と白人の女、しかも旧宗主国の女王だ。当時はイギリス本土も、移民のモザイク国家になっていなかった。女王の体にはもともと触れてはいけないというタブーがあり、アメリカでは黒人と白人の結婚がほとんどの州で禁じられていた時代だ。

エリザベス女王は賛否両論があったのに初めて戴冠式の撮影をTV中継し、その録画を全世界に配信した君主だ。「女王」というイメージ戦略を最大に発揮した。007だって、男の王のために働くのでなく女王陛下と対になるから「強い男」を演じることができた。

女王は母がスコットランド人だからスコットランドとは相性がいい。でも北アイルランドでは難しい立場で、北アイルランドでは「謝罪」コメントを出している。

戦争、植民地、ジェンダー、立憲君主国、あらゆる意味で、イギリス王室と日本の皇室は対照的なのに、なんだか日本には世界最古の葷酒だとか「アメリカ」にはない伝統、とかで日本の皇室とヨーロッパの姻戚関係が張り巡らされた王室を並べて語る言説があるのは不思議だ。

フランスでも、ルイ14世の王位のほうが72年で最長だった(と言っても即位が5歳だから実権はかなり後)と言う人とか、フランス国民は王をギロチンにかけたくなかった、あれは革命議会の政治的独断だった(実際ルイ16世は結構進歩的だったし、すぐにルイ・カペーという一市民の立場を容認していた)、という人があちこちにいる。

日本でも、明治天皇の子孫だという人が、フランスについてこんなコメントをしているのを読んで驚いたことがある.(2019年の話)


オリンピックの汚職をフランスが捜査していることで、ゴーンの逮捕に対するフランスの報復のように見え、フランスの民度の低さが見え、マクロンは相当追い込まれている模様、だとか、フランスという国はですね、ヨーロッパの中国と言われている、として、「日本人って、フランスを良い国だと思ってるじゃないですか。フランス革命とか『人類の栄光』とか言ってるじゃないですか。あんなもの、人類史上の汚点ですからね、フランス革命なんて。あいつらのおかげ社会主義とかでとか共産主義とかできたわけですからねえ」「だいたい、パリの様子見たらわかるじゃないですか。自分のとこの治安も守れずに国がグチャグチャになってですよ、何がオリンピックの贈収賄、ふざけんなっていうんですよ」「結局、フランスは敗戦国のくせにね、戦勝国ぶってるんですよ。ふざけんなっつうんですよ」とか、フランスには皇室がないからひがんでいる、とか言ったそうだ。



うーん。突っ込みどころ多すぎ。フランスは確かにヨーロッパ内で中央集権を保った国だが、「中国」と並べるのは意味が違うし、敗戦国が戦勝国に、というのも単純な問題ではないフランスの外交力の成果だし。それをドイツとの和解に結びつけたのは大したものだった。ドゴールがNATOからフランスの兵力を引き上げたことにも通じる。(サルコジが復帰させたけど)


もちろんフランスでも、大統領には任期があるからいくら王さまを演じても無理だと揶揄する人もいるし、女王陛下のイギリスを称賛したりうらやんだりする声もある。

確かに、インフレ率がフランスよりはるかに高いイギリスで、多くの人が女王の棺のもとに何十キロとか何十時間とかかけて粛々と列を作って並ぶなど、フランスなら、抗議デモなど起こって警備が大変だろうなあと思う。(その意味で2011年の津波の後で盗みも暴力沙汰もなく日本人がじっと食事の配給に並んでいた「民度の高さ?」がフランスで称賛されていたのを思い出すし、日本人とイギリス人ってまじめなところは似ているのかも。)

まあ、いずれの意見も、メディアにとっては、視聴率がとれるものなら何でも歓迎という一点に集約できるのだろうけれど。


by mariastella | 2022-09-26 00:05 | 時事
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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