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L'art de croire             竹下節子ブログ

人生の終わりプロジェクト

ジャン=リュック・ゴダールがスイスで安楽死を選択したというのは日本でもすぐに報じられたと思う。

ヨーロッパでは他にベルギーやオランダが有名だが、フランスでも来年三月までに同様のシステムを導入しようというのでいろいろな議論がなされている。
ベルギーは制度開始以来20年になるので、それがどう変化してきたかの検証がなされている。

細かいことはここに書かないけれど、要するに、「死」を「早める」選択は「拡大」している。本来なら激しい痛みを抑える手立てがなく、推定余命が数日とか一週間も持たないだろうという時、患者が自分の意志でそれを望み、死を誘発する点滴のバブルを自分で開く、などの「自殺幇助」だった。

しかし、それは簡単ではない。
病の最終段階などで、頭がはっきりしているか、判断力があるとみなされるか、最後の希望をを口にしたり書いたりする能力があるのか、という条件をクリアするのは難しい。

逆に頭がはっきりしていさえすれば、ゴダールのように「病気ではない」のに生きる意志を失った、というので「自殺」幇助してもらえるというならハードルはある程度低くなる。

それがエスカレートすると、たとえ本人の過去の希望が残っていても、最後の段階で意見を変える例もたくさんあるというのに、もし昏睡状態やら認知症状態の場合、遺族がそれを頼むことができるのか。この場合はもはや自殺幇助でなくただの安楽死だ。
さらにエスカレートすると、本人の希望の有無とかかわらず、家族にとって「重荷」になってきたら、「回復の見込みのない」患者の安楽死を頼めるのか。
あるいは「社会」にとって「重荷」になれば、安楽死が許可されるのか。

ともかく、一度、「自然死」を合法的に「早める」扉を開いたら、実はどんどんエスカレートしていくのが予想される。

一方、安楽死を合法化していない社会でも、苦しむ患者を人為的に深い昏睡状態にしたり、死のリスクを早める量のモルヒネを打ったりということは、事実上行われている。
「早く死にたい」というのではなく、持ち直してからの計画を語りつつ、鎮痛剤の効果が薄れてきたことで「早く、早く、薬を打って、」と懇願した友人の病室に居合わせたことがある。次の投与時間までまだ30分待たなければならないタイミングだった。結局少し早めに投与、友人は眠りに落ちて、そのまま目を覚まさなかった。末期ガンで二人の幼い子が残された。もう25年前のフランスの国立病院のことだ。
ある意味、直接の死因は最後のモルヒネだったのかもしれないけれど、誰も倫理的な問題は問わなかった。居合わせたすべての人は、彼女の痛みを和らげたいと思っていた。
もう一人は80代で、入院は最初から拒否、通ってくる家庭医に治療してもらいながら、最後は自分で飲食を絶って一週間後に亡くなった。
今、私と長い間いっしょに弾いていたヴァイオリニストが、91歳になり、妻を亡くしてからどっと弱り、その上にコロナ禍で外へ出なくなり、音楽院にも来れなくなり、老衰で入院しているが、水も飲まなくなった。経管栄養も拒否、水を口から入れても吐き出した。それなのに、「お父さん、どうしたいの? 食べたくないの?」という娘たちの問いには答えない。意識はあるし、発声を妨げるものもないのに、声を出さないのだ。父親の気持ち、望みに添う形で見送りたい娘たちにはつらい試練だった。


by mariastella | 2022-10-25 00:05 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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