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L'art de croire             竹下節子ブログ

J・F・ケネディとヨーロッパ 

3年ぶりの日本滞在からフランスに戻ってからArteで視聴した「JFケネディのヨーロッパ」というドキュメンタリーについてメモ。



今までケネディとヨーロッパの関係で見ていたのは、彼がアイルランド系の最初のカトリック大統領だということで様々な妨害も受けていたこと、妻もフランス系のカトリックだという意味などだった。
1937年、ケネディが19歳の時に友人と二人でヨーロッパ旅行をした時の自筆の詳細な日記≪MyTip abroad≫が残っていて、それは長い間公開されていなかった。後の大統領として不都合なこともいろいろ書いてあるからだ。ナチスドイツの求心力の強さなどを見て、北方ヨーロッパ人はラテン民族より優れていて、ラテン民族はやっかみからドイツを批判するのだ、みたいなこと。
まったく知らなかったのはケネディは幼少期から持病があって、入院も繰り返したし、薬漬けだったということだ。19歳の旅行中も同じだった。大統領になってからも、執務の合間に痛みの発作が起きるとモルヒネだとかアンフェタミンだとかを注射していた。
19 歳での欧州旅行というのはイギリスの貴族やブルジョワの若者がやっていた伝統的な習慣で、20世紀のアメリカのエリート家庭にもそれがあったわけだ。
自分がカトリックだからか各地のカテドラル(ケルンの大聖堂が特に気に入ったようだ)を訪れて感嘆しているだけではなく、フランスではルルドに巡礼しているのもおもしろい。

その次にヨーロッパ各地を回ったのは、1939年だった。父親のいるロンドンのアメリカ大使館を起点に、各国のアメリカ大使館を回って、外交文書を漁るなどしてこの時はすでに政治的な分析をしていた。当時は、父親ジョセフは長男のジョセフを大統領にするのが夢で、次男のジョンはその器ではないとされていた。しかしジョセフは海軍で死亡、ジョンはジャーナリストから政治へと転向することになる。

三度目のヨーロッパは戦後のベルリン取材だった。憧れでさえあった美しい町や力強いナチス党員らはすべて崩壊、衝撃の中で市井の人々にインタビューする。
そのうち一人の女性の証言が興味深い。ナチス崩壊の後、姉と2人でいる家にソ連兵たちが入ってきた。暴行されるかと恐れていたが、壁にあった聖母像を見たソ連兵が「カトリックか?」と聞いて、そうだと答えると、そのまま帰っていったというのだ。
ソ連兵と言っても、ひょっとしてウクライナ兵だったかもしれないし、カトリックだったかもしれない。ロシア正教も聖母崇敬があるから、聖母像に反応したのかもしれない。ソ連は基本的に無神論共産国だったわけだけれど、私的空間で「宗教」が続いていたのは知られている。(プーチンも幼児洗礼を受けている)

大統領になったケネディが最初にソ連のフルシチョフと会談したのは19歳の旅でドイツに行く前に訪れたウィーンだった。1961年のことだ。フルシチョフとの会談の前にパリに行ってドゴールのアドバイスも受けていたようだ。フルシチョフやドゴールなどの強者らに伍して、冷戦下のさまざまな危機に対応せねばならない若いケネディにとっての重要な任務だった。
しかしその年にベルリンの壁が作られた。(それ自体は、もう西への「侵攻」がないということで緊張緩和の一つとなった)
ウィーン会談での2年後、ケネディは西ベルリンを訪れ、有名な「私はベルリン市民である」という演説をぶち上げた。しかしその時も、モルヒネなどを打ちながらの最悪の体調だったらしい。その時のベルリン市民の自分に対する熱狂を見て、ケネディは嘗てのヒトラーへの熱狂のことを思い出して複雑な気分になったという。

で、同じ年の秋、彼はダラスで銃弾に倒れた。
その時は、若くて働き盛りの大統領の非業の死、という印象だったけれど、すでに深刻な健康問題を抱えていたんだなあと思うと、痛ましい。

「欧米」関係についてもあらためて考えさせられた。




by mariastella | 2023-01-15 00:05 | 歴史
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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