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L'art de croire             竹下節子ブログ

移民とフランス

前の記事のサロンで、フランスが好きになる本、というのを買った。

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フランスの普遍主義に根付く「文化」の形が歴史やシンボルなどいろいろな面から語られている。

今のフランスを見ていると、ムスリム国からの移民の一部原理主義者(イスラム原理主義国から派遣される指導者に扇動されている場合もある)によるセルフ共同体主義ゲットー形成というのがあるし、そうでなくとも麻薬販売ルートなどを通じて若い世代がマフィアグループのようなものに分断して互いの紛争を繰り返すというのもあって暗くなる。

大きく歴史を振り返ると、ローマ帝国時代にケルトやゲルマンがラテン化した「フランス人」は、19 世紀後半より前の1000年はほぼ似たような感性を持ってきた。

20世紀初にはイタリアなどから大規模な移民があったが、もともとラテン・カトリック文化圏だから同化が早かった。でもその3分の1は祖国に戻ったのだそうだ。それは雇用の問題だ。移民の定着が成功するには、受け入れ国が経済的な成長途上にあり、移民によって国民の雇用を奪ったり給料の低下を起こしたりするようなことが起きないこと、が必要だからだ。第一次世界大戦後の不況がネックになった。ラテン系でなくともポーランドなどカトリック国からの移民はすんなり統合を果たせた。

21世紀の今、移民がどの国でも社会問題となっているのには、やはり経済の停滞や「異文化」というファクターが大きく働く。

ヨーロッパでいえば、不法移民、難民でも、到着国がまず受け入れる(これには当然アフリカや中東からの移民の入り口となるイタリアが猛反対した)、後は割り当てるなどという政策を打ち出した。2015年にはドイツのメルケル首相がシリアの難民を100万人受け入れる、などとぶち上げた。

ドイツはもともとカトリックもプロテスタントも混在する領邦国家だったし、ヒトラーのアーリア民族主義というトラウマが今も根強く残っているから、異文化圏難民の受け入れハードルが低いのだろうか。もちろん経済力もあるし少子高齢化高齢化の問題もあるから、「移民受け入れ」政策の条件には適っていた。

けれども、フランスもそうだけれど、もともと今のヨーロッパ諸国にやってくる移民は「旧植民地国」からの割合が多い。その中でも、植民地時代にキリスト教化してしまった国(特にローマ・カトリック系)なら国別でない別のシステムを共有しているから「文化」への統合の困難さは少ないけれど、イスラム文化圏はそうはいかない。
旧宗主国に対する被害者感情が大きいし、「独立後」にはそれを利用して敵愾心を維持させる政府もある。つまり、イスラム文化圏からフランスにやってくる移民は、基本的にフランスへの悪感情を抱いている場合が多い。
単に貧しい国から「アメリカン・ドリーム」を求めてアメリカに移住するケースなどとは本質的に違う。

フランスの場合は、少子化もなく、若年失業者の率も高く、経済もグローバル化の中で自立した力などないところに、普遍主義を含むフランス文化に敵意を持っている移民がやってくるのだから緊張が高まるのは当然だ。
出生地主義だから「移民の子孫」はみなフランス国籍を持っている。非政治的だった彼らは、イスラム原理主義者たちから働きかけられて、イスラム主義共同体に取り込まれることがあるわけだ。その根っこには、30年くらい前までは、普遍主義による福祉政策や教育システムによって「普通のフランス人」として統合することが可能だった「移民」や「移民の子孫」が、グローバル自由経済による貧富の格差の広がりの中で貧困に陥ったという背景がある。その結果、失業、犯罪率が広がり、「刑務所」の中でイスラム原理主義者から「洗脳」されてフランスを敵と見なす共同体が形成される。

それに対して、フランス人はもとより自虐的なので、ジュピターのようにふるまう大統領が出たとしても、社会全体で「フランスよいとこ」というキャンペーンなどはしない。しかも、アメリカ発のキャンセル・カルチャーの影響で、「フランスの良さ」が片っ端から叩かれるご時世だ。

そんな中で「フランスよいとこ」を具体的に上げようというのがこの本だった。

日本からフランスに来る人、移住する人は、日本が「キリスト教文化圏」ではないにも関わらず、植民地や戦争という歴史のないことも幸いして、「フランス嫌い」という先入観を抱いている人はまずない。むしろ「フランス好き」だろう。
だから、こういう本をわざわざ読まなくてもいいわけだけれど、これを読むと、「フランス好き」単におしゃれなイメージなどではなくてもっと深いところから来ているという発見になるかもしれない。

編者のAlfred Gilderはフランス語擁護の本も出している元高級官僚だが、ユーモアの感覚もある人だ。名前から分かるように、父親はイギリス人でイラク生れという経歴もおもしろい。10歳で学んだフランス語とフランスを愛し、それこそフランス「普遍主義」の文化を称揚し続けている。

私は日本人の場合はフランスへの感情はまた別ですよ、と彼に言い、今執筆中の「日本とフランス」の内容について少し話した。すぐに波長が合った。

これは彼の別のユーモラスな歴史本とそこに書いてくれた献辞。
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あなたの生きる喜びと私たちの友情が続きますように、とある。
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by mariastella | 2022-12-26 00:05 |
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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