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L'art de croire             竹下節子ブログ

ベネディクト16世 サイト記事シリーズ その5

2005/8/25のサイト記事。


ケルン世界青年の日大会

B16が法王に就任してから最初の「外遊」が母国ドイツで、しかも、今やカトリック世界の希望に満ちた看板行事となっているワールド・ユース・デイの出席とは、まさに「天の配剤」のようなタイミングだった。加えて戦後60年だ。819日にケルンのシナゴーグに現れてホロコーストを「前代未聞の犯罪」と断罪できたことは、もう、これだけで、B16が誕生した意義があった。ホロコーストの時代にカトリック家庭にかくまわれて、後に洗礼を受け枢機卿にまでなった改宗ユダヤ人のもとパリ大司教リュスティジィエもB16に同行した。ドイツの宗教的政治的大物も顔をそろえた。ナチの時代にケルンには1万5千人のユダヤ人がいて、そのうちの1万1千人が収容所で殺された。シナゴーグももちろん壊された。今のシナゴーグは1959年再建で、5000人のメンバーのうち、500人がB16に会いに来た。その中にはアウシュヴィッツの生き残りの婦人もいる。その人は、ケルンのシナゴーグにローマ法王が来る日があるとは想像もできなかったと感慨をもらした。しかもポーランド人法王でなくドイツ人法王だ。

B16
は宗教間対話を第一のマニフェストに掲げ、ユダヤ人代表からも「宗教間の懸け橋」と形容された。皮肉なことに、教理省長官時代の「プロテスタント差別発言」のせいで、むしろプロテスタントとの話し合いの方が緊張をはらんだ。ルター派、バティスト、メソジスト、オーソドックスなど30にのぼる諸派と会い、神学上のデリケートな問題には触れなかったものの、「誠実さとリアリズム、忍耐と持続」によって違いを乗り越えようと言った。ドイツは領邦国家ごとにカトリックとプロテスタントの棲み分けがあった歴史もあり、今でも、カトリックとプロテスタントが結婚した時の微妙な問題が取り沙汰される。フランスでは全体としてカトリックが多いせいもあるが、少なくともルター派と改革派とカトリックの間では、結婚した時の不都合が問題になることはまずない。

それにトルコ人移民の問題がある。ヨーロッパ憲法がフランスで否決されたことについて、ドイツでは、トルコの加盟の検討についてドイツがフランスに早々と肯定的な意見を出させたことがフランス国民の反発を招いたのだと反省する人がいる。実際はヨーロッパ憲法はトルコ加盟と直接の関係はなかったのだが、トルコ排斥派が憲法反対派に加わったので、否決後、トルコ移民の多いドイツではますます不穏な雰囲気になったのだ。

イスラムの問題、ユダヤの問題、そして、キリスト教諸派の共存の問題、ドイツはまさに世界の問題の縮図を抱えているわけだ。JP2はカトリック国ポーランド出身だった。東西イデオロギー冷戦時代には最高の人選だったが、ポスト・イデオロギー時代の今、中南米カトリック国出身の法王が選ばれていたとしたら、宗教間の微妙な調整に適任ではなかったかもしれない。ドイツ人法王B16は、第二次大戦を真に終わらせて、世界の平和の鍵を握る最適任者に見えてく る。宗教が戦争を生むわけではないが、宗教の問題を解決すれば、戦争解決の糸口が見つかるかもしれない。JP21987年にアッシジで最初の世界宗教者 会議を開き、ボスニア戦下の1991年、アメリカ同時多発テロの後の2002年1月と、平和の危機に世界の宗教者を集めた。ドイツ人のB16がそれを継承できたらその意味は大きい。世界青年の日だって、おひざ元のケルンだから人が集まりやすいという話ではなく、むしろ、ドイツだったからこそ状況は微妙で、その成功は意義深い。世界青年の日が盛り上がっても教会はガラガラで聖職者志願の若者は増えないとはよく聞く話だが、少なくとも、「宗教」を戦いのアジテーションとしてでなくお祭りの呼びかけだととらえて若者が集まるというのは喜ばしいことだ。(2005.8.25


コメント) 在位が四半世紀も続いたJP2とはいろいろな意味で比べようもないけれど、それでも今やカトリック信徒の重心がある中南米やアフリカ出身の教皇に移る前にドイツ人のB16がしっかりと第二次世界大戦とホロコーストに向かい合ったことの意義は大きかったと、今でも思う。思えば、冷戦のさなかにポーランド人JP2、冷戦後のヨーロッパの基盤固めにドイツ人B16と、こういうのを「天の配剤」っていうのかも。






by mariastella | 2023-01-09 00:05 | 宗教
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