時々引用される文に、文芸評論家、作家、ジャーナリストのピエール・アスリーヌのこういうものがある。
ne pas oublier que les gens ne vous pardonneront jamais le bien que vous leur avez fait. C'est là une constante de la loi d'ingratitude... Un bienfait ne reste jamais impuni”
― Pierre Assouline 『Le portrait』2007
人というものはあなたが彼らに良かれと思ってしたことを絶対に赦さないと言うことを忘れてはいけない。それこそ「恩知らず」の法則と呼ばれるものです。どんな善意(親切)もいつかは罰せられる。
逆説か皮肉かよく分からないけれど、深読みするとなかなかショッキングだ。
良かれと思ってしたことが時として「余計なお世話」とか迷惑とかだったというニュアンスではなく、「親切にする」というシチュエーションには「親切にしてあげられる」側と「親切を必要とする」側に上下の差が生まれることを前提にしている。
もちろん、親切にする側にそんなつもりがなくて純粋な場合でも、親切を受けた側が、「借り」を負わされたと感じてしまうことはあるわけだ。
「おすそわけ」などのプレゼントをされても「お返し」をしなくてはならないとプレッシャーになったりというささいなことから、親に育ててもらった恩があるから「親孝行」を期待されたりという重荷までいろいろだ。
確かに、「恩を売る」とか「恩に報いる」などという言葉もある。
ピエール・アスリーヌはエルジェのファンだから、この言葉はタンタン・シリーズの「Les aventures de Tintin, tome 23 : Tintin et les Picaros」( 1997)からとったのかなあとも思う。
タンタンと言えばいつも全力で善意の塊のような人間だから、「困っている人」があればそれがだれであろうと後先も考えずに身の危険も顧みず助けようとする。
それを見たアドック船長がこういう。
Haddock: Vous avez tort, Tintin ! Et vous le regretterez un jour ! Souvenez-vousqu'un bienfait ne reste jamais impuni !
「それはだめだよ、タンタン! 恩は、いつかはあだで返されるってことを思い出さなきゃ!」
というセリフだ。
見返りを当てにして親切にされたらもちろん重荷だが、見返りを考えない純粋に無償な親切を受けた場合でさえ、「施された側の人」が、妙な罪悪感や、親切にしてくれた人の優位な立場に嫉妬を覚えるなどの心理があるということだろうか。
でも「恩をあだで返される」ことに対するリスク回避の方法はあるらしい。
「良いこと、善行」をした人は、それに対して何の感謝もされないことを幸せに思わなければならない、それこそが、中傷や批判や憎悪を避けるための知恵である。
で、
シャトーブリアンの言葉。
"Ce que les hommes ne vous pardonnent pas c’est la justice de votre cause, votre courage, et votre constance."
Chateaubriand
人があなたを赦さないのは、あなたの大義、勇気、誠実さが正しいものである時です。
人間ってなんだか怖いなあ。
真の「神」は愛することしかできない、「神罰」を想定するのは人間だけだ、
という言葉もあるけれど、そうかもしれないなあ、と思えてくる。
(で、親切、善行、無償の手助けをしたい時の安全で手っ取り早い方法はやはり、人道支援団体などの枠内で活動するなどのやり方で匿名性を貫くことだろう。実は皆がそのことを分かっているからさまざまな団体がある。中には、その内部で一部のものによる搾取の構造もあるので、見極めは必要で、大変だけれど。)