キップリングの「If」とピエール・アスリーヌ Pierre Assouline
キップリングのジャングルブックは私が8歳の時にはじめて読んだ上下2巻本の長編小説だった。少年少女の世界名作全集か何かだと思うが、強烈な印象を残した。 彼の他の作品は読んだ記憶がないが、「If」という詩はフランスでも有名だし、日本でもよく知られているらしい。 この詩をフランス語に訳そうとしたキップリングの同時代のフランス人の文学教授を主人公にしたピエール・アスリーヌの小説を読んでいる。タイトルは、この詩の最後の文、「息子よ、お前は男になるだろう」という部分だ。 ![]() でも、この詩、今風に言うと、いろいろ不都合かもしれない。 この詩では人間として全うで責任感ある大人になってくれという父の思いが語られているのだけれど、それが「父」が「息子」に期待するもので、正しく強く辛苦に耐えてあきらめずに進む、というのが、ある意味、批判の的になるかもしれない。 「娘」には同じことが求められないのか、あるいは息子でも、心身を病んでいたり障碍を抱えていたりする場合は、父の期待する対等な男とは認められないのか、などと言われてしまうかもしれない。 実際キップリングは一人息子のジョンを「男」にしたかった。 強度の近視で兵役検査ではねられた息子を自分のコネでアイルランドの部隊に入隊させた。ジョンは、1915年に第一次世界大戦下のフランスに派兵され、最初の戦いで死んだ。わずか18歳だった。キップリングは息子の生死を確認し遺体を発見しようと、1936年に自分が死ぬまで何度も現地に赴いた。ジョンの死が確定されたのは1991 年のことだ。つまりキップリングは息子の「喪」に服することができず、20年以上も喪失感、罪悪感に苛まれ続けたわけだ。 で、アスリーヌの小説では、Ifの詩で勇敢に戦うことを称揚したキップリングは、フランス戦線でのこの息子の死を前にして、フランス人文学者との関係にも変化が起こったという設定になっている。 で、この詩は、原詩のヴァージョンにもよるけれど、フランス語訳は大体コンセンサスがあるが、日本語訳は難しい。いろいろな人の理想像が反映されている。ネットにもいろいろ出ているのを見た限りでは「息子よ、男になれ」のようなニュアンスはなくて、「一人前になるための教え」のようだ。 本来、インド・ヨーロッパ系言語から日本語への翻訳の問題というのは難しいけれど、文学作品、特に「詩」となると、まるで独立した新しいクリエーションになってしまう。そうでない「逐語訳」には意味がなくなる。 この詩の一節ずつを取り上げて、時代背景も加えたその意味と日本語訳について考えていくと興味深い。 日本語訳については「キプリング If 和訳」で検索するといろいろ出てくる。 これはそのひとつ。 これはオリジナルの詩とアンドレ・モロワ?によるフランス語訳(ポール・エリュアールのものというヴァージョンもあるが確認していない)。
Et sans dire un seul mot te mettre à rebâtir
で、ピエール・アスリーヌの小説は、まだ全部読んでいないけれどすでに「すばらしい」という印象。 (読み終わったらゆっくり感想を書きます。)
by mariastella
| 2023-03-22 00:05
| 本
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