マーティン・マクドナー監督、脚本「イニシェリン島の精霊」
観たかった映画だが、残酷描写をできるだ避けると決めているので、あえて映画館には足を運んでいなかった。
アイルランド本土で内戦が起こっている時代を舞台に、海を隔てているだけで一見平和な小さな島で起こる。男たちは午後になるとったパブで過ごす。
みんな同質に見えるし和気藹々とやっているのだが、実は教養や知性に差があり、島では自然に封印しているかに見えるのだが、ある日、実存的不安に目覚める人がいる。
それがヴァイオリニスト(フィドル?)のコルムで、自分の生きた証に曲を残したいと思った途端、おそらくやや知能指数が低いが気のいい仲間パドリックとのルーティーンが諸悪の根源に見えてくる。
思えば「生き甲斐」や特に「生き甲斐探し」など、エゴイズムに属するもので、ただ「やさしさ」に生きているパドリックと対極にある.でも「生き甲斐」に目覚めたコルムも「やさしさ」を捨て切れたわけではない。
二人ともそうだが、動物との関係においてはごく自然に「やさしさ」をベースにしている。
火に包まれたコルムの家の壁には、能面がいくつか架けられている。彼が音楽だけでなく文化的教養の持ち主だとわかる。日本の演劇ともモーツアルトの音楽とも繋がるコルムにとって小さな「島」で朽ちていくことに気づいた焦りは深刻なものだったろう。今の時代なら、通信環境さえあれば世界の果ての島からでも表現を発信できるのだろうけれど。
アイルランドだから至る所に十字架が見え、聖母像もあり、日曜には皆正装して教会に行くし、司祭に告解もする。
景色は夢のように美しく、夕陽に浮かぶ山羊のシルエットが印象的だ。
それでも、「癒し」は「やさしさ」を経由しなければ実現しない。