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L'art de croire             竹下節子ブログ

エネルギー戦争

この『エネルギー戦争』の著者ファビアン・ブグレには、前にも原子力発電や魚リアンの問題についての著書があって、いずれも私にとって「目からうろこ」な内容がある。
この中で、たとえば、「原子力平和利用と核兵器開発はまったく別もの」、というような言い方は、原子力発電を進めて「石油輸入依存率」を減らしたフランスの言説だからバイアスがあるとは思うけれど、1859年にアメリカのペンシルベニア州で油田がスタートして以来の本格的な「石油」時代である150年のスパンで語られる部分には、なるほどと思うことがたくさんあった。

世間では陰謀論に惑わされないようにファクトチェックが大切だなどというけれど、早い話が、「白」ですよ、と言われてチェックしたら確かに白だったから正しいなんてわけがない。裏は黒いかもしれないし、白にもグレードがあるし、くるくる変化しているのかもしれない。
「150年のスパン」ではさすがに実感はないけれど、幸い「高齢者」になっているので、50年前のことはすでに成人の頭で記憶している。そう、1973年のオイルショックの時に飛び交った言説だ。しかもあの頃、もう地球の石油採掘には限界があって、埋蔵量は後20年で尽きるというのが「定説」だった。それをみんな信じていた。
今は、2016年以来のアメリカのシェールガスを別にしても、海底石油も含めて、石油は後200年大丈夫ということになっている。

20年が200年になった。

普通の人にはファクトチェックなどもとより不可能な話だ。
この一点だけでも、定説とか常識などにはファクトチェックなど通用しないと実感する。
で、人類は何万年も前から戦争をしていたとはいっても、「石油燃料」が登場してから劇的に変わった。クレマンソーが「石油は地球の血液である」と表現したくらいだ。そして石油を産出できるかどうかが国の命運を決める。
ヨーロッパは石油産出地域ではないので、オイルショック以来、フランスは原子力発電を国策にした。ドイツはロシアのガスを直接つなげることでEUでの政治力を発揮した。フランスの国有電力会社EDFの解体、自由市場化を執拗に進めた。(この辺の事情は、EDFの内部に親しい知人がいたので具体的にも観察している)

この100年余りの戦争は全て燃料の戦争だった。燃料をめぐり、燃料を求めての戦争でもあり、同時に、勝敗は燃料の多寡が決めた。燃料補給ができなくなった時点で、戦車、戦艦、戦機は全滅する。

第二次世界大戦のヨーロッパでの命運をかけた独ソ戦でも、1830年代から存在していたアゼルバイジャンのバクー油田がソ連に国有化されていたことが勝敗の分かれ目になった。ヒトラーがバクー油田を制覇していたら歴史は変わっただろうとブグレは言う。
ヒロシマ・ナガサキ・フクシマを抱える日本人として、また原子力発電によってヨーロッパでは最もロシアガスの依存が少なく、EUでドイツとの攻防を続けるフランスに住んでいる身としては、今の状況の判断は難しい。
50年前と同じように50年後にはまったく別の状況になっているのかもしれないけれどその頃にはもう生きていない。今は、過去の半世紀の地政学をめぐる言説の変化を目の当たりにしてきた経験から、できるだけ冷静に分析したい。

ドイツは原発と石油からエオリアンとロシアガスに乗り換えたわけだけれど、エオリアンについては違和感もあるし、実際の問題もあり過ぎる。
太陽光発電のパネルだって今の時点では問題があり過ぎる。私の住んでいる二軒長屋は屋根の日当たりがいいので当然パネルの設置を検討したことがあるが、屋根の中央に天窓があるというだけで、不可能だと言われた。そして、たとえ設置してもそれは電力を「売る」ためのもので、自分の払う電気代を減らすというものではないとも言われた。もちろん年齢からいっても設置費用を償却できるものでもないが、あらゆる点で、政策というより「ビジネス」に加担するものだと実感する。

世界大戦のような大規模な戦争がなかったにもかかわらず「スタンダードな言説」がこの半世紀にわたってくるくる変わってきたのを見てきたことを無駄にせず識別力を働かせたい。





by mariastella | 2023-10-27 00:05 |
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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