人気ブログランキング | 話題のタグを見る

L'art de croire             竹下節子ブログ

カエサルのものはカエサルに

10/22のオディール100歳記念のミサ説教で、不穏な空気が立ち込めている世相についてブルノー君が話したことが印象に残った。フランスにいると、イスラム過激派による北フランスの高校教師殺害に続き、その日のミサのあったヴェルサイユでも爆弾を仕掛けたといういたずら電話で宮殿が閉鎖される事態が続いていた時だ。ウクライナもパレスティナも、日本でのような対岸の火事ではあり得ない。
で、その日の福音書で、有名な「カエサルのものはカエサルに」という箇所について。
よく知られていると思うが念のためwikiをリンク。

福音書に書かれているイエスの言動だが、四人もの福音書作家が、微妙に違っているところまでそのまま忠実に残していることも踏まえ、文献学的、歴史学的に徹底した研究がすすめられてきた。他の宗教の経典ではなかなか難しい。「科学主義」の時代、宗教改革、近代革命、無神論、フリーメイスンなどの時代の波を経たキリスト教文化圏だからこそできる強みだ。実際、新約聖書は、古代の文書の中で世界一その信憑性が認められているものだそうだ。文献学者の意見は一致していて、イエスの言動を記録した24000の手稿を比較研究したところ、99,5%の確率で当時のものであるという信憑性があるらしい。

で、カエサルのものはカエサルにというのは、「政教分離」の原則だと思われていた。だからこそ、初期キリスト者の教会は、その場所の世俗権威に逆らうことなくひっそりと生きていたというイメージだ。

4世紀にローマ帝国の国教となってからは、政教分離どころではなくなったわけだけれど、いつの世にもイエスの教えに戻ったキリスト者は出てきた。

で、よく考えると、「罪のない者だけが石もて打て」もそうだけれど、イエスはレトリックの天才というか、普通ならファリサイ人の罠にはまって矛盾をつかれるところをいつも鮮やかにかわしている。この時も、もし税金を納めなくてもいいといったらローマの傀儡ヘロデ政権に反抗することになるし、納めろと言えば律法原理主義のファリサイ派に糾弾される。

そんな風に、難しい局面でもいつも教えの一貫性を貫いたイエスを倒すためにイエスを不都合であるとみなす敵はどうしたかというと…

政治と宗教がタッグを組んだのだ。

決して妥協することなく、隣人を愛せよ、敵をも愛せよ、すべての人は神の子だと説く「不都合」なイエスを黙らせるために、政治権力と宗教権力が近づいた。

その二つは「暴力装置」も抱えている。

そして、21世紀の世界のあらゆるところに広がる争い、戦争、弾圧などの現場では、まさに、政治と宗教が互いを利用している。

ブルノー君の指摘、まさにその通りだと思った。

ではどうしたらいいか。

キリスト教のイエスはその犠牲者でもあったけれど、罪なくして犠牲を引き受けたことによってすべての人を救ったとされている。

イスラエルの聖地エルサレムにはキリスト教の13の宗派が共存している。イスラエル全体でキリスト教徒は1,8%で、パレスティナでは1%で、イスラム過激派の台頭によって追われた。それでもガザのキリスト教系学校は認知されていて、ハマスの子弟も通っている。ギリシャ正教、カトリック、バプチストらが残っている。

逆に、イスラエルでは、アフリカ、フィリピン、ロシアのキリスト教徒の移民が少しずつ増えているという。エルサレムの13の教会は10/17の時点で踏みこたえていて、エルサレムのラテン総大司教ピエールバティスタ・ピッツァバッラPierbattista Pizzaballaは、ハマスに人質として連行された子供たちの身代わりに自分が人質になることを提言したという。(この部分の出典はLa Vie 4077, p 51

この提言にははっとさせられた。弱者を救うために、暴力の連鎖を断ち切るために、徹底的に身を捧げたイエスに奉仕するキリスト者としては、ある意味で当然の帰結だろう。

このイタリア人大司教は65歳で、枢機卿に任命されたばかり。いわば出世コースに乗ったエリートだ。その人がこういう言葉を発するのを聞いて、絶対平和の教えがまだ生きているこという希望を抱かせてくれた。

平和のために、みんなが少しずつ、自分のできる範囲で何かを犠牲にしなくてはならない。

                     ・・・


ヴェルサイユから帰りのタクシーの中からローラン・ガロスのテニス会場が見えた。観戦したことがないから知らなかったけれどまるで見本市の会場みたいな入り口だ。
カエサルのものはカエサルに_c0175451_03165422.jpeg
カエサルのものはカエサルに_c0175451_03171473.jpeg
街には紅葉や落ち葉が目立つようになっていた。
カエサルのものはカエサルに_c0175451_08080940.jpeg








by mariastella | 2023-11-08 00:05 | 宗教
<< レポーター・イラストレーター 100歳の誕生日ミサ >>



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
以前の記事
2026年 03月
2026年 02月
2026年 01月
2025年 12月
2025年 11月
2025年 10月
2025年 09月
2025年 08月
2025年 07月
2025年 06月
2025年 05月
2025年 04月
2025年 03月
2025年 02月
2025年 01月
2024年 12月
2024年 11月
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
カテゴリ
検索
タグ
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧