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L'art de croire             竹下節子ブログ

久しぶりの末広亭

ここ7,8年はご無沙汰していたと思う新宿末広亭の11月上座に行ってきた。
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私にとって日本でのライヴというと、歌舞伎と宝塚と末広亭。

歌舞伎はコロナ後3年ぶりで去年鑑賞。宝塚はもう4年行っていない。

落語については、行きの機内のオーディオサービスでJAL名人会を全部聴くことにしているので、なんとなく飢餓感がなかった。たまに昔の名人落語をネットで見ることもあるし…と。
ところが、久しぶりの末広亭。実に楽しかった。声を出して笑えた。
実は、日本のいわゆるお笑い芸というのは好きではなく、ドタバタも苦手だし、社会的な発言をするとたたかれるようだし、フランスのスタンダップコメディアンの方がずっと面白いと思っていた。
しかし、今回、久しぶりの末広亭、
あらためて、大学の落研などから今も若者がこの世界に入ってくることを知って感心した。将棋の棋士もそうだけれど、みんな正座できて和服を着こなしているし。
こんな素晴らしい日本語の話芸の継承を続ける若手がいるのは頼もしい。前座の初々しい若乃丞という青年による雷電為右エ門(為五郎)の話も楽しかった。相撲史上最強力士と言われながら横綱にはなれなかったというのは知らなかった。ネットで検索していろいろなことが分かった。便利な時代だ。
久しぶりの末広亭_c0175451_19582418.jpg
とにかく、機内のオーディオで聴くのとは別世界。

今回は桂文治の「時そば」でそばをすするとき、ちくわを食べる時の顔芸と擬音がうますぎて感心した。時そばは有名だから話は知っているし何度も聞いているのに、とにかくジェスチャーが名人芸。他に、空き巣に入った泥棒が羊羹を食べたり、長屋で頂き物のフグ鍋を食べたりするシーンもみな秀逸だ。(フグの話で、フグ鍋をてっちりというのは鉄ちり、鉄砲のことで「弾に当たる」を、「たまに(毒に)あたる」とをかけているというのもはじめて知った。)
そして、キャンセルカルチャーとも別世界。
しかも、最新の社会問題や政治もぽんぽんと出てくる。
「86歳が拳銃もって…」(これはコントの中)とか、市川猿之助の裁判が始まったとか、柿沢法務大臣の辞職とか、トリの桂幸丸なんて、田中角栄と北海道の中川一郎の確執などネタにしているし。
夏日が続く東京で、この日も最高気温が26度の夏日でみんな汗ばんでいるのだけれど、三遊亭竜楽が、「皆さん、26度で暑い暑いというが、26度の風呂に入ってごらんなさい、冷たいですよ」というと、皆、なるほどそうだとうなずいていたのも印象的。
講談の神田陽子の顔芸もすごい。講談の中で歌舞伎のシーンが出てくるので、そのパロディっぷりが笑える。
落語が江戸の太平の世の中で生まれたというのも今の世相の中で感慨深い。徳川の天下になってから、まず、女性の歌舞音曲が盛んになり、次に歌舞伎、文楽などが栄え、江戸後期に落語が生れた。他の文化と違って、一人で演じることができ、扇子一本以外なんの小道具も場所もいらない。口だけ。表情だけ。(ただしひとりで二人の会話をなりたたせるためには客が最低二人必要だ。役を変えるたびに顔の向きを変えるからだ。)

でも、落語の言葉というか、昭和の言葉でさえもう今の若い者には通じない、というのも笑えた。長屋のご隠居と女中さんが通じず「横長のマンションに働いていないおじいさんとメイド」だとか。昭和のギャグもいろいろ出てきたが、全部は分からない。昭和最後の10年はほとんど日本にいなかったから。
また桂歌丸さんの死も複数の落語家が触れていた。「笑点」と「昇天」とをかけたり、81歳での葬儀に参列していた師匠の桂米丸さんはすでに92歳であったこと、米丸師匠は今98歳で、元気でおしゃれだという。

桂夏丸だったか、戦時中も閉まらなかった寄席がコロナ禍で数ヶ月閉まった時、喉の訓練に毎日歌っていたヨーデルを披露してくれたし、戦後から1950年代のCMソングをいろいろ聞けて楽しかった。

桟敷から「待ってました!」の声がかかったり、開放的でよかった。なんだかんだ言われても、もうコロナ禍は過去のことという気分を味わえた。

「親孝行」ギャグで、「孝行をしたいときには親はなし」という時代から「孝行をしたくないのに親がいる」という時代になったというのもおもしろかった。
また、不景気だなんだかんだいっても、平日の昼間から寄席に来ている皆さんはお金のある人ばかり、といって、高齢スターのコマーシャルを実名を挙げてからったり、暇はあっても金がない人、暇も金もあっても体の具合が悪い人、暇も金も健康もあっても家族との折り合いが悪い人、などと言ったりして世相を語った人もいて、なんだかリアルでもある。

大阪出身で東京で20年落語をやっている人の江戸弁ジョークもおもしろかった。
「たいがいにしろ」というのを江戸の言葉では「てーげーにしろ」という。だから阪神タイガースも阪神テーゲース、とか。



by mariastella | 2023-11-18 00:05 | 日本
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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