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L'art de croire             竹下節子ブログ

弥生美術館と「銘仙」

前の記事で書いたように、11月に弥生美術館に行ってみた。
地下鉄の根津駅から言問通りをずっと行くと弥生町。
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このあたりから弥生土器が発掘されたことで、弥生時代と呼ばれるようになったそうだ。初めて知った。縄文式の土器というのは、縄目の模様だと見当がつくけれど弥生土器がどうして弥生というのか考えたこともなかった。
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東大の工学部の門がある。
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この辺りは東大の工学部とか理学部とかがあって、東大ってこんなに広いんだと知った。東大のほとんど向かいに弥生美術館と竹久夢二美術館の看板が見える。
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今回の展示は「大正の夢 秘密の銘仙ものがたり展」ということで、着物と言えば浴衣以外には、子供の頃からお正月に母から着付けしてもらった「晴れ着」しか知らない私には縁のないものだからあまり期待しなかったのだが…。
美術館の入り口でいきなり、「銘仙」を着ているらしい女性二人が。まるで別世界にスリップしたような感じだ。
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写真を撮らせていただいた。後で分かったのだけれど、着物を着たグループ訪問者の先着の2人だったようで、グループ全員がそろって着物展を観ているのは壮観だった。
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いろいろ買いたくなる売店。
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で、銘仙だが、驚いた。大正時代の女子学生らに流行ったようで、その柄はほとんどポップなものまである。「着物」というと古風な「着物柄」を連想していたけれど、自由なアートであり、洋服と違って布地に広がりがあるからほんとうにキャンバスに描くようにデザインされているのだ。実際、「西洋画」や西洋デザインの影響も大きかった。
もとはと言えば、明治末期に学習院の院長をしていた乃木大将が、生徒の着物に友禅は贅沢すぎる、銘仙は固すぎていけない、と言い、模様を織り出す銘仙ができたという。仮織りしてから型紙を使って模様を染めてから織りなおすという。

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半襟も含めて、この大胆な組み合わせってすごい。
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人気のモティーフはどんどん変化した。明治末期は美大の図案科教授たちが伝統的な画らをセレクトして色や大きさを変えた図案集をもとにしていたが、10年後には動植物と幾何学模様がほとんどになり脱伝統化が進んだ。一番人気は薔薇、二番目は孔雀だったという。こういうの。右のはハートではなくて孔雀の羽だ。色も形も大胆な組み合わせ。
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西洋花゛―無は明治37年のセントルイス万博からだという。パンジー、スズラン、クローバーなど。
アジサイは確か日本からシーボルト経由でヨーロッパに広がったのだと思うが、このアジサイのデッサンなんて、色のグラデーションも美しい。まさに「絵画」だ。
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幾何学っぽいものもあるし、色使いもデザインも斬新で大胆だ。着物という概念を壊そうとしたのだという。伝統的な横縞と立涌を組み合わせるだけでこの新しさ。(それでも「洋装」を制服のスタンダードにしなかったのが興味深い。)
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この帯のモティーフって、なんと、ラインダンスなのだ。発想もすごいし、デザインも色使いも斬新だ。一つ一つ驚かされる。
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英語までデザインにそのまま入っている。
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これは昭和2年の女性誌の口絵で、三越で開催されたモダニズム染織品の展示会だそうだ。ダダや構成主義に傾倒する新興芸術家集団NAVOが関わっていた。
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彼らのコンセプトは、「ジェンダーレスな服を選ぶことで、社会的な役割から解き放たれることの心の健康、シンプルに暮らすためのシンプルな服、動きの邪魔をしない服を目指す」というものだったそうで、100年前の驚きの発想。
原文はこれ。
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でも、「和服」の形から逃れられないのは、自由なキャンバスとしての「反物」があったからなのだろうか…。

この着物はエチオピアなどアフリカの国旗色、赤、黄、緑を使ったものだという。イスラエル・ハマス戦争で、中東やアフリカのアラブ系、イスラム系諸国が赤、黄、緑が圧倒的に多い国旗を翻してデモをしていたのは記憶に新しい。パレスティナの旗は黄色の代わりに黒と白が配されているが、どこでも、赤は殉教で緑はイスラムカラーと見なされている。それにしてもどうして、銘仙の柄にエチオピア?
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竹久夢二の絵が使われた足利銘仙の絵ハガキが飾られている。夢二も、モダンなデザインの半襟、千代紙を販売したけれど、銘仙に関しては異論があったという。時代に迎合してモダン化したのは寂しいとか、外国雑誌の図案や色調をそのまま着物に利用するのは外国人の足にする敷物やカーテンを着ているようなものだとか酷評していたという。夢二の描く着物は大人の女性には縞や格子など、華やかなのは少女にと使い分けていたのだとか。
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これは幼児の「一つ身」という着物。日本とアメリカを結ぶ豪華貨客船の浅間丸。背景はホノルル港のアロハタワー。横浜、ホノルル、サンフランシスコが「憧れのハワイ航路」とうたわれた。昭和10年ごろ。
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これも子供の着物。天使が見えている。
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これは南国への憧れ。戦前8万人の日本人が南洋諸島に移住し、南洋諸島を統治して以来その日本化を進めた。昭和10年は熱い南洋ブームだったという。
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戦後のモティーフは、時事を表すものが出てくる。

手裏剣かと思ったら、ペンギンの行列で日本の南極探検隊の期間を記念した図案だそうだ。
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戦後のバレエ教室のブームを反映したのかバレリーナが。
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子猫とスピッツの親子。スピッツは戦後の一番人気だったそうだ。私が最初に「自分の犬」にしたのもスピッツだった。
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これはエリザベス女王の戴冠式をモティーフにしたものだそうだ。
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要するに、着物って、反物で見せて、縫い合わせた後も平面的に広がって衣文掛けにかけておける構造だから、本当にキャンバスのように絵画の舞台になるわけだ。


これまでイメージとして、着物の柄は伝統的なもので衣服としても保守的だというのだった。それに対して、洋服は体を自由に動かせて開放的で近代的、のようなステレオタイプが自分のどこかにあったらしいのが吹き飛ばされた。
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by mariastella | 2023-12-02 00:05 | アート
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