ロベール・バダンテールとパンテオン
(続きです)
先週、ロベール・バダンテールの追悼式が番ドーム広場でマクロン大統領主催で行われた。バダンテールの死刑制度廃止の名演説も流れ、マクロンがバタンテールのパンテオン入りを示唆した。 しかし、死刑廃止の名演説から40年以上経ち、世界の情勢は変わった。 バダンテールは、そもそも「監獄」は犯罪の醸成場だとして刑務所の数を減らす政策だった。確かに、「普通」の窃盗犯などが刑務所で過激派イマムなどに「洗脳」されてジハディストになるなどのケースは語られてきた。けれども、死刑が廃止されたせいで終身刑や長期刑が増えたことにより刑務所の収容キャパシティは限度を超えた。で、短期刑の収容者がもう社会の脅威にならないと判断されて釈放、仮釈放されるケースも少なくない。そして、彼らが再犯するケースも多いそうだ。テロリストや凶悪犯罪者のうちで、再犯者、前科リスト、監視リストに載っていた者の率は少なくない。 死刑判決は人間のすることだから、誤りはゼロではない。無実の者を国家が処刑する確率が少しでもあってはならない、だから死刑そのものを廃止、という理屈は分かる。 しかし、犯罪者を釈放する、「償い」を済ませた、「改心」した、などという司法の判断もまた、人間のすることだから誤りはゼロではない。いや、収容施設が足りないなどの理由から、バイアスがかかる率は少なくない。 もともと、「死刑廃止」にも、厳密には、ある人物が国家や国民に重大な危害をもたらす場合を除いて、というような条件がついているそうだ。正当防衛が許されることとも符合しているし、何より殺傷武器を駆使して戦争することが合法であることとも符合する。殺傷、破壊の兵器や武器の輸出を「防衛装備の移転」などと言う。ロシアはドンバス地方のロシア系住民をネオナチの虐殺から「守る」ために侵攻した。イスラエルは10/7のハマスのテロの報復と人質解放を目指してガザを破壊している。日本の真珠湾攻撃も、生きるか死ぬかのぎりぎりの「防衛」だった。 今の国際社会で「戦争」は「犯罪」だから、それを始めるのはいつも「ネオナチ」やら「テロリスト」やらで、ロシアやイスラエルはそれに対する「防衛」をしているだけだということになる。 「情動」の効果は大きい。映像をはじめとした数々のプロパガンダが「正当防衛」を後押しする。 まさに幼児を殺されようとしている母親が敵の頭を撃ちぬくことを批判する人も法律もない。 「死刑廃止」には異論がないが、一方で戦争をしていたり殺傷兵器を製造、輸出していたりするのでは「偽善」すら感じる。政治犯として磔刑で殺されたキリストから出発したヨーロッパはこのことをもっと考えてほしい。 バダンテールは当時のフランスの世論調査の60%以上が死刑賛成だった時に人道の正論を述べて流れを変えた。40年以上経った今、フランスの世論はまた、55%が死刑復活に賛成している。 安楽死の問題、妊娠中絶の問題もある。「生命」に関する問題は政治やイデオロギーを超えた実存的な問題だ。 「死刑廃止」のバダンテール(彼もまたナチの犠牲になった家族を持つユダヤ人だ)の名演説だけを振りかざして彼のパンテオン入りを煽るのは一種のポピュリズムだ。パンテオンには、フランス文化の「偉人」たちの他、多くのレジスタントの闘士や、スーパーのレジ係の身代わりを申し出て殉職した中佐も入っている。 この中佐のカトリック教会による「列福審査」の申請もある。 カトリック教会は、列福(列聖の前段階)調査を開始する前に、最低死後5年という規則を定めている。(ヨハネパウロ2世のように教皇として長くすべてが公の記録にすでにあった場合は例外が設けられた) フランスのパンテオンは文字通り、多くの神を祀る共和国の「神殿」で、カトリック教会の列福列聖システムの「世俗版」だ。フランスの共和国精神のアイデンティティの確認としても悪くはない。でも、それもだんだんとポピュリズム政治の道具にされるようになるとしたら要注意だ。 バダンテール、国会名演説から40年以上の激動の時も共に生きてきた人だからこそ、安易なツールにされることなく彼の立場の変化も併せてじっくり検証されることを願う。
by mariastella
| 2024-02-22 00:05
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