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L'art de croire             竹下節子ブログ

黒いファラオ

3月半ば、Arteでスーダンのケラマのピラミッド群(世界で一番ピラミッドが集中している場所)の発掘についてのドキュメンタリーを視聴した。

世界一古い文明というとエジプトを連想するけれど、エジプトの南にあるスーダンのケシュ王国はもっと古くからあったという。エジプトの2 倍の面積があった。
最後のファラオとされている王が埋葬されているナパタのピラミッドの地下は浸水していて、ここ半世紀に登場した海底考古学者が潜水して探っている。(ナイル河の水位が当時より4,5メートル上昇したからだという。)今の発掘チームは、スーダン政府の監視下にある国際的なグループだ。

クシュ王国は最終的には、紀元前四世紀頃に滅亡した。

ナパタは、1920年ごろにラスレイという人がはじめて発掘し始めたのだけれど、その頃は、まさか黒人の王国とは思われていず、エジプト王国の要塞だと思われていたので考古学的価値も少ないとしてうっちゃられていた。1973年からスイスの考古学者が発掘し始めると大理石の彫像など貴重なものがたくさん出てきたという。このクシュ王国は南からきた黒人の国家で、ナイル沿いにエジプト王国と拮抗したり、共存したり、宗教を習合したり、征服されたり、首都を変えたり、とさまざまな歴史を経て消滅したわけだが、長い間存在を過小評価されていた。

それはエジプト王国がクシュ王国の黒人を下に見ていた原初の人種差別の上に、アフリカが植民地化された人種差別が重なって、「黒人に文明が生まれることはない」という先入観が先進国の歴史学者や考古学者にあったからだ。

古代エジプトの壁画にも、黒人との戦いのシーンがあるが、あきらかに下位の者として描かれている。エジプト人の肌の色は褐色で、クシュ人の肌は真っ黒だ。

でも、紀元前1700年ごろにエジプト王がクシュを征服してからもクシュ人は奴隷のようには扱われていなかったらしい。エジプト軍は単身で占領に来たから、クシュ人女性と結婚したり、クシュの神(コブラがついている)とエジプトの太陽神アモンを習合させたり、うまく共存した跡がある。クシュ王朝もその後また「復活」した。

それでも、エジプトはいつもナイルの全域を占領したがっていた。

おもしろいのは、紀元前750年頃のエジプトの第25代王朝というのがクシュの王だったということだ。その頃エジプト王家は分裂して、祭司たちはクシュ王に事態の収拾を依頼し、クシュ軍がやってきてエジプトを征服、それから5代の間、「黒いファラオ」の時代となった。「黒いファラオ」はピラミッドの形を採用したが、遺体のミイラ化などはせず、文化や伝統を取捨選択したそうだ。クシュ王がファラオとなったエジプト王国の領土は最大となる。
その栄光が終わったのはシリアから侵略されたからだ。
「首都」もあちこちに移動した。

スーダンのピラミッド群の多くも、後にエジプト、スーダンがキリスト教化してから、解体されて石材が教会の建築に使われたという。(イスラム教に征服された後は、キリスト教徒は南スーダンに追いやられる形となった)
メロエという場所はスーダンで最もピラミッドがたくさんあるところだが19世紀に「金塊」を探したイタリア人によって大きく破壊された。クシュ王国の歴史の全貌は今も解明されていない。

栄枯盛衰。

エジプト王国にしてもクシュ王国にしても、「王国」と名がつけば、支配者は自分の勢力範囲を広げていきたいものであり、なんだか、ここ5000年くらいの人類の歴史って、似たようなものだなあ、と、進歩のなさ(もちろんテクノロジーの進歩のことではない)には愕然とする。一方で、交易が成立して余剰価値の生まれた所では、人種と関係なく「文明」が生まれるのだなあと感心する。

21世紀のスーダンの内戦の激しさや分裂は記憶に新しいが、このドキュメンタリーを視聴していろいろな感慨をおぼえてしまった。

by mariastella | 2024-04-26 00:05 | 歴史
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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