昨年読んだ本で、作者の名前「知念実希人」という名前を憶えていたので、4月に青山ブックセンターに寄ったときに買った本2冊を、何となく読み始めて2冊とも読んでしまった。帰国してからまとまった時間が取れない日が続いたので気楽に読めてしまう本に手が伸びたのだ。前のはこの記事に。
前回の『十字架のカルテ』は二重人格などの精神疾患をめぐってのものだったが、今回の2作は「超常現象」や奇跡や不可能な事案をめぐって、いずれも、レアな病気から来るものだと説明される。もうこれは、こういう病気のことを知っていないと「推理」して解けるものではない。ただただ、なるほどこういう病気があるんだなあ、と傾聴するしかないので、いわゆる「謎解き」ミステリーではない。

しかも、主人公が見た目が中学生のような28歳の女医で、高機能自閉症っぽく、天才だが、相手の言葉の意図を読み取れない、聴覚過剰敏感など、アスペルガー症候群そのままなのだが、言葉遣いがおかしい。このタイプのアスペルガーの人は、子供の時から自分の違いには敏感で、一応、自分なりに「普通」の「ふり」を身につけるものだが、この天久鷹央は敬語を使えない。男言葉、しかもぞんざいすぎて、違和感がありまくりだ。たとえば、「…します」というところを普通に「…するよ」としか言えないならまだ分かるけれど「…するぞ」というのだ。
日本のような社会では絶対のハンディなのに、不自然すぎる。そういう設定が型破りで人気があるなのかとも思ったが、最後まで違和感がありむしろ不快だった。
それでも、「謎」がおもしろく、どんなレアな病気で解明されるのかという好奇心は刺激されるので最後まで読んでしまった。アルコールがないのに泥酔するとか、キックボクサーがチャンピオンになったとたんに急死するとか、人ごみの中で指先から腐っていくとか、「気」を入れられて若返るとか、「預言者」が血の涙を流して手に十字架が現れるとか、まあ、牽強付会のものもあるけれど、ちゃんと説明される。
作者は現役?の医師だからこういう診断自体はあり得るのだろう。
でも、例えば、カトリック教会にやってきたホームレスが血の涙を流して手に十字架が浮かぶからと言って、即、「預言者」だと神父が入れあげて、バチカンの調査官を依頼するとか、その辺の事情は、非現実すぎる。まあ作中でも「バチカンの奇跡調査は数年待ちが当たり前だ」とは言わせているけれど、あまりにもお粗末な「認定」だし、第一、今の日本のカトリック神父がこんな「奇跡」にすぐ飛びつくとは思えない。
もし、入れあげたのならまず司教に報告するのが筋で、それ以外は考えられない。
パードレピオのように両手のひらや脇腹にいつも血が流れ続けているなどという極端な「症状」でも、まずは「隠す」ことが求められたわけで、どんな現象も「悪魔」の仕業かもしれないのだから、「奇跡」が即「聖性」の証拠にはならない。
血の涙、という「症状」は、「血汗症」と同じように、あり得ることは誰でもネットで検索できるだうし、この「教会」で、預言者に夢中になる「信者」たちというのも信憑性がない。司教区にはエクソシストもいるわけで、全体として説得力がないので、ちょっとひいてしまった。
それでも、全体としては十分面白く、「結末を知りたい」と思わせる力は十分ある医療ミステリーだ。
ひょっとしてまた読むかも。