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L'art de croire             竹下節子ブログ

パリ・オリンピックを前にして

パリ・オリンピックを前に、少なくともパリやその近郊の人々は、厳戒態勢や交通規制、観光客蔓延のパリを離れて、地方や外国にバカンスに出たり別荘に引きこもったりするという人が増えている。

近代オリンピックの父クーベルタンの国での100年ぶりの開催で「外面いのち」で「アスリート好き」のマクロンががんばっているのに、根がシニカルなパリジャンたちは概して冷たい。

いわゆるオリンピック精神よりナショナリズム、国威発揚、何よりも経済効果、一部の企業の独占チャンス、汚職などが目立つ最近のオリンピックだが、開会式と選手村だけは、本来の理想だったユニヴァーサリズムが残っている、と言われる。

せっかくだからその論調の一部をここに書き留めておこう。


開会式では、大国の選手団も、小国の選手も、同等に扱われ、そのようなシーンを世界に発信するのは大いに意味がある。

選手たちを見るだけで、人類博覧会の趣きさえある。人種や民族の多様性だけでなく、体格の多様性もある。女子体操選手から男子バスケット選手まで、それぞれ一流アスリートなのに人間っていろいろなヴァリエーションの可能性があるんだなあ、と思える。

「平均」からどのような形で外れていても、いろいろな特性を生かすこともできるのだ、と分かる。(パラリンピックはそれをさらに特化したものだろう)

開催国が5種類までは新種目を加えることができるから、お国事情や時代の「流行」も知ることができる。参加国が多くない「レスリング」の続行をイランとアメリカという犬猿の仲の国が支持しているのも興味深い。

昔はアマチュアの選手が対象とされていたけれど1990年からプロの参加が可能になったのでレベルはぐっと上がった。冷戦時代は、共産圏の国ではトップ・アスリートが軍隊など国家公務員として働いているのでアマとして参加してくるという不公平があった。

1930年にサッカーのワールドカップが始まったのは、プロのいないオリンピックのサッカーでは「世界一」の意味がないからだった。

今はプロが参加できるので、ある意味で世界の不平等も反映する。アルバイトをしないと食べていけないような選手と、天文学的な高収入を得ているプロのアスリートが同じフィールドに立つのだ。一方、すでに名声も収入もありあまるほどあるプロのアスリートが敢えてオリンピックに出場するということ自体は、「勝敗」だけではない「スポーツ」の意味や意義も感じさせてくれる。

パリ・オリンピックは、はじめて男女の参加選手が同数になったオリンピックだということだ。古代オリンピックはもちろん男性だけのものだったから、これもシンボリックな意味を持つ。(ちなみに男女選手が区別なく同種目を戦うのは馬術だけだ。)

人々がいつも「英雄」を欲しているという心理もある。オリンピックのメダリストは「ヒーロー、ヒロイン」を視覚化してくれる。

だからこそ、一人の天才選手が多数のメダルを獲得することが可能な陸上競技や水泳に国家予算をつぎ込む国(イギリスなど)がある。

一つのオリンピックが本来のユニヴァーサリズムを体現しているもう一つは「選手村」での「平等」だ。サッカーなど地方での予選で一流ホテルに泊まっていたチームは、決勝戦などが行われる開催都市に戻ってくると、他の「弱小国」や「弱小チーム」と同じ条件の「合宿」生活を送ることになる。食堂などで「対戦国」の選手と同席するだけでなく、他種目の「ヒーロー」とも出会える。選手村内はジャーナリストの出入りが禁止となっている。ヒーローたちがジャーナリストの目のないところで交流できるのだ。(今はSNSの時代だから、自分たちで撮影したものを公開したりジャーナリズムに流したりという別の現象があるわけだから。) etc...


私はオリンピックの開会式の切符を持って日本からやってくる人のためにうちに残らざるを得ないのだけれど、日本人としては、「おお、2020年が東京で2024年がパリなんて、すごいなあ」と思った時期があったので、2020年と2024年の明暗を分けた運命のことも考えてしまう。2021年の無観客開催や、翌年の北京での冬季オリンピックでの厳戒態勢を見ての複雑な思いもあるし、2030年の札幌冬季オリンピックとか、来年の大阪万博のことにまで思いがめぐる。コロナ禍という情報悪夢を体験した後では、確かなものは何もないとも思えるし、それでも確実に利益を貪る企業や政治家はいるのだし、すでに高齢者である自分自身が何をどこまで見届けることができるのかも心もとない。

ともあれ、「若者の暴動」やドラッグの蔓延が毎日話題になるフランスのこの夏のオリンピックがどうなるのかを見聞することになりそうだ。


by mariastella | 2024-06-15 00:05 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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