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L'art de croire             竹下節子ブログ

カルロ・アクティス列聖認可に伴う「奇跡」の話

523日、フランシスコ教皇がカルロ・アクティスの列聖を認可した。

列福以来の新しい「奇跡」が認定されたということだ。


(これまでのカルロ・アクティスについての記事。)



列福の際に認可された奇跡は、2013年、消化器疾患と稀な膵臓異常を患うブラジル人の子供が、家族がカルロの遺品の一部を当ててとりなしを祈った後で、自然治癒した例だった。

列聖のために認められた新しい「奇跡」は、2022 年のものだ。2018年からイタリアのフィレンツェで勉強していた、コスタリカ出身の17歳の女子学生ヴァレリアのケースだ。2022年の7/2に自転車から転落して深刻な頭部外傷を負い、頭蓋内圧を下げるために右頭蓋骨の後頭骨を緊急除去する手術を受けたが回復の見込みはないとされた。7/8、母親はアッシジにあるカルロ・アクティスの墓所に行って祈ると、ヴァレリアはその日に、自発呼吸を取り戻し、翌日に上肢の運動機能が回復し、言語も部分的に回復したという。脳内出血も消滅していた。


それにしても、カルロ・アクティス、202011月の列福からわずか4年で列聖決定とは。速い。しかもカルロは21世紀生まれ、白血病でわずか15歳で亡くなったが、生きていれば今年はイエスが復活昇天した年と同じ33歳。

「奇跡」が多いのか少ないのか分からない。こんなに「ご利益」があるなら膨大な人数の人々が自分のためや家族の治癒ために祈っている(正確には神へのとりなし)だろうから、「厳選」された2件以外に、草の根的な多くの治癒があるのかもしれない。申告しない人もいるだろうし、治療が不可能と診断されていたという「奇跡」の基準に満たないものもたくさんあるだろう。

この奇跡認定の少し前の517日、ヴァテイカンの教理省長官フェルナンデス枢機卿は、4月に教皇が認可したとおり、「超常現象」について、以後、「真実性」の「認定」を必要条件とせず、その現象に対する崇敬の感情をリスペクトするという15ページにわたる新規範を発表した。これは、1981年にボスニア南のメジュゴリエで6人の未成年に聖母が現れてお告げを与え続け、さまざまな逸脱も批判もあったに関わらず、巡礼地が生まれてしまったことついての長い論争に対する答えであった。

御出現やお告げなどの「奇跡」の真実性の認定の必要性が限定化されたのだ。それで言うと、カルロ・アクティスへの「崇敬」の過熱ぶりは充分だから、「奇跡」認定はもう必要ないといえるほどだが、列福列聖の手順は詳しく規定されているからそうもいかない。

カルロ・アクティスの件で私が感慨を覚えるのは、彼の死後18年経過した今、デジタル・ネットワークの世界が飛躍的に進化したことと、キリスト教にコンプレックスを持たない若い世代が増えたことだ。今のフランスの若者の間ではもう一昔前の「左翼無神論」、「宗教蒙昧観を持つ理科系」などがぐっと減っている。 イスラム原理主義者などが「宗教」を掲げる世界では、誰にでも何となくスピリチュアルなものへの敷居が低くなっているからだ。


ヴァーチャル・リアリティやメタバース、神話を取り入れたゲームなどになじんでいることもあって、オカルトや占いなどに惹かれる若者たちもいるが、気がつくとすぐそばに「キリスト教」の伝統がある。さまざまな宗派に分かれる仏教やプロテスタンティズムなどとちがって、特にローマ・カトリックには積み上げられた確固とした神学体系があるので知的なアプローチを可能にしてくれる。


そんな中で「宣教」に目覚めた若者たちがインフルエンサーとして次々に発信し始めた。

ビデオの構成もますます洗練されて、説得力も強い。

実際の聖職者、修道者でもあるインフルエンサーもいて、一昔前ならブログを開設して発信していたことを、イラストやアニメまで駆使してさまざまな角度からテンポよく届けている。

対談やインタビューも駆使して生の声や人柄を伝えることもできる。

彼らの中から近い将来に第二のカルロ・アクティスが出てくるかもしれない、と思うと、「聖人のネットワーク」に一足先につながっているようで楽しい。

前にも紹介したドミニコ会のアドリアン神父は別格として、今話題のインフルエンサーが設営するサイトには「Catholand」, 「Amen」, 「Le catho de service」の三つがよくできている。







by mariastella | 2024-06-01 00:05 | 宗教
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

by mariastella
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