政治と精神分析 その3
(前の記事の続きです。)
次は、同じLe Point 誌(N.2708, 6/27号)から、精神分析の視座の典型であるエディプス・コンプレックスの話。 突然の解散で最も劇的だったのは、メランションの後継者ともみなされていたフランソワ・リュファンが6/15にメランションを激しく攻撃するSNSを投稿したことだ。この二人は、一心同体と見なされることもあったくらいで、メランションとの混同を恐れたリュファンが離れたわけだが、言葉の応酬が激しく、精神分析学的には典型的な「父殺し」に見えるという。年齢的には今の時点でメランションが72歳、リュファンが48歳でマクロンと同世代だ。リュファンはジャーナリストでもあり、中学からイエズス会系私立校に行っていたというのもマクロンと似ている。メランションも敬虔な母の影響でカトリックの教養が深いのは有名だ。そんな2人の行きついた極左というのも興味深い。 なおメランションには娘婿がいてやはり義父と共に活動しているので、その辺も心理的な影響があるのだろうか。 マリーヌ・ル・ペンとバルデラの組み合わせはどうだろう。バルデラはマリーヌの姉の娘の夫で、体格もいいし、生え抜きの党員、根っからの賛同者だ。党首に抜擢されているが、年齢的にはマリーヌが55歳、バルデラ28歳。マリーヌはまだ現役の年齢で、自分自身が「父殺し」を果たして主役に躍り出た経歴を持つ。 実際、マリーヌは、バルデラが首相になった場合も、自分は彼の権威に服するつもりはないと6/20のLe Monde紙に答えている。自分はそれとは別に時期大統領選に向けて邁進する、というのだ。少なくとも、3年後にバルデラを大統領選に送り込むなどとは考えていないわけだ。精神分析学では、ある種の家庭で、息子が父親や他のきょうだいよりもとびぬけた新しいオーラを放つことに耐えられないという母親が存在するという。「誇らしさ」と「怒りや敵意」は両立さえするらしい。 マクロンとアタルの場合はどうだろう。マクロン46歳、アタル36歳と年齢が近すぎる。マクロンは次期大統領選に出ることはできないから、アタルを首相に起用したのは後継者披露、王による立太子宣言のように見られていた。 それなのに、アタルに相談することなく突然の解散で、アタルはこれからの3年で腕を振るうチャンスを奪われそうになっている。で、彼は、総選挙で議員として出馬するにあたって、マクロンの後ろ盾を避ける。 6/20に記者たちの前で「一月九日、共和国大統領が私を任命しました。六月三十日(総選挙第一回投票)にはフランス人が私を選んでほしい。」と述べた。そこには「私を大統領にしてください」という意味が込められていると見る人もいる。アタルの狙うのは、もはや、「王」の退位による即位ではなく、マクベスのような「王殺し」の下克上なのだという。 全体として、若い野心家たちが、もはや年功序列を守らない時代に突入しているわけで、一定の成功を維持し挑戦を続けるためには、彼らによるタブー破りは続くだろう。 以上、解散総選挙の混乱を精神分析学的、心理学的に語ったLe Point誌を概観してみた。 各パーソナリティの分析なのかと予想していたが、ある意味で無難なものだった。 Le Point誌は中道右派というかLR(共和党)寄りの雑誌だからか、LR党首のシオチが突然独断でル・ペンのRNと同盟したことに特化して深堀りする記事はなかった。メランションからあれほど攻撃されていたオランドが自尊心を捨てて左派戦線に加わったことなどと共に「裏切りと謀略」の渦巻くシェイクスピア劇のようにとらえられていた。 シオチがRNとの共闘を発表してすぐ、党首なのにLRの幹部たちから「除名」されたというのに、堂々と本部に戻って自分の居場所に落ち着く場面を撮影させて拡散するなどは、まさに「劇場型」パフォーマンスだった。 他にもヴァレリー・ぺクレスやブリュノー・ル・メールについて掘り下げる記事もあったけれど、日本人にはなじみが薄いと思うので紹介はこの辺にしておく。 (この号が出て読んでいる間に、アメリカの大統領選の第一回の論戦があった。 バイデンとトランプ。 フランスでは若手によるタブーの侵犯が続くと言われているのに、「西洋」の中では「若い国」であるはずのアメリカで後期高齢者の対決って、どうして…の感がある。 どちらが大統領になっても実際に舵を取るのはCIAなど影で支配するディープステイトなのだから事実上の弊害はない、そのことは、6月のノルマンディ上陸の記念式典でのオバマ大統領らに対するヘリコプターの乗り方の指示にもはっきりと表れている、などと解説している人もいるが私にはわからない。 連邦制の国と中央集権のフランスの違いはあれど、やはりある程度の「若さ」はシンボルとして必要だという気がするのだけれど。) (これを書いているのは6/30で、第一回投票の結果は予想通りRNがトップとなっていた。続きはこの後の記事で。)
by mariastella
| 2024-07-03 00:05
| フランス
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