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L'art de croire             竹下節子ブログ

ポストリベラリズム

近頃このブログを読みに来る人の数が突然増えている。


今の日本では、奇妙なくらいフランスの極右台頭が話題になっているという人がいたから、そのせいだろうかともちらりと思った。パリ・オリンピックが注目されることもあるだろう。dマガジンでは「家庭画報」で「2024年夏、パリの情熱」などと題して昔ながらの「憧れのパリ」を特集しているのを見たからセキュリティの問題とか気にしていない人もいるわけだけれど。(もっと詳しく見てみたら、カルロ・アクティスの記事へのアクセスが増えていたのだ。なぜだろう。)


現時点でのフランスの話題は、第一回投票で極右がトップ、二位と三位が極左を含む人民戦線やマクロン派、ところによっては共和党、などという選挙区で、極右RNを落選させるために三位になった候補者が第二回選挙から次々と撤退していることだ。二位が左派連合の人民戦線の中でも、ー極左に属する候補者であった選挙区では、たとえRNを妨害するためでもとても辞退して連帯できないとして踏みとどまるマクロン派もいないわけではない。

でも、中道と左派の多くがRNの当選を阻むために「共和国戦線」などと称して連帯しはじめたので、RNが議会で絶対多数を占める可能性は少なくなったと予測されている。どちらにしてもマクロン派は現在の250議席(それでもすでに絶体多数ではなかった)から100議席くらいに激減することは確実視されている。


RNに打ち勝つためには、極左も中道もみな協力するというわけだが、例えば初回で実際に共和党に投票した人が決戦で極左に投票するものなのか、逆に、極左に投票した人がマクロン派や共和党に投票するものなのか、そしてこうやってRNの絶対多数議席獲得を阻んだところで、水と油の共和党と極左などが連帯できるものなのか、いろいろ議論されている。


実際に、「公約」、マニフェストだけ見てみると、今のRNは過去の極右的言説を引っ込めている。でも、今の時代、舞台裏でのファシスト発言はあちこちから漏れてきている。


それにしても、フランスの政治家やジャーナリストたちの能弁には感心する。


政治家は本来雄弁家でなければならないというのが分かる気がする。

「不言実行」で事が済む時代でも場所でもない。

変な話、マリーヌ・ル・ペンが話しても、ガブリエル・アタルが話しても、ジョルダン・バルデラ(彼には徹底したコーチングがなされているそうだ)が話しても、その場ではだれにでもなるほどと思わせてしまうくらいの説得力のある話術が必要だ。

彼らがすごい熱量でよどみなく言葉を繰り出すのを見ていると、みんな若いせいか、頼もしくさえ感じられる。(バイデンとトランプの討論の様子が同時期に何度も映されたことの反動かもしれない。)


さて、そのような混迷とは距離を置いて、実際は何が本当の問題なのかをもう一度見てみよう。

フランスでは「道徳規範」を支えていたソフトパワーとしてのキリスト教やカトリック教会が姿を消して、今はイスラムがソフトパワーとして増大している。その逸脱や政治利用があった場合、「宗教」や「信仰」の観点から批判したり議論したりする相手がいなくなっている。


ポストリベラリズムが可能なのか、どの方向に導けばフランスの民主主義と共和国主義の覚醒になるのかという答えが出ていない。

冷戦以来、民主主義陣営と見なされていた世界でネオリベラリズムが急激に広がった。グローバリズムと呼ばれる経済至上主義は大きく二つの道を開いた。ひとつは、生産拠点を人件費の安い途上国に移すこと、もう一つは逆に、国境を事実上無視して安価な労働力を大量に流入させるということだ。前者は「先進国」の製造業を空洞化し失業者を生み、後者は非正規労働者を増やし無法地帯も増やし犯罪を増やした。

ネオリベラリズムのフランスは、ヨーロッパの枠組みで新しい「帝国」を実現できると夢想した。

その結果、前者は、コロナ禍でのロックダウンで明らかになったように、「金融資本」しかない先進国では必需品が不足したり、一部のグローバル企業との癒着が進んだりした。後者は、貧富の差を広げ、政治への不信につながった。


モラルなきネオリベラリズムから脱して、ポストリベラリズムの時代を模索するには、政治が、民主主義の根幹にあったはずの「公共の福祉」を取り戻す必要がある。

フランス語では公共の福祉は「bien commun=共通善」と呼ばれる。

それがいつのまにか、「intérêt général=全体の利益」へとシフトした。  


この二つは似て非なるものだ。全体の利益というのは、個人の利益を集めたもので、社会の貧富の差が大きくても、一部大資本が莫大な利益をあげれば国の経済が「成長」して黒字になる。

これに対して共通善というのは、各個人に利益追求の権利はあるけれど、全体に共通する善を関係性の中で実現しようという考え方だ。

「全体」のために個人を切り捨てたり犠牲にしたりするわけではないし、数で計測されるような「利益」だけを指標にするわけでもない。

ポストリベラリズムの確立には「互恵を前提とした自由」の基盤が必要だ。


ポストリベラリズムという言葉は、イギリスの神学者と政治学者John Milbank と Adrian Pabstが「The Politics of Virtue: Post-Liberalism and the Human Future (Future Perfect: Images of the Time to Come in Philosophy, Politics and Cultural Studies)という本の中では「徳の政治」という言葉で語っているが、日本語で検索したら「規範理論」という言葉で出てきた。


神学者がかかわっているように、民主主義のルーツだとされるグレコ=ロマン、ユダヤ=キリスト教を基盤に考えられている。


では、日本のような国が「民主主義」を本気で考えているのか、それとも、いつから「思考停止」状態なのか、今の宗教者が政治における「徳」をどのように考えているのか知りたい。(参考になる資料があればサイトのコメント欄でお教えください。)


では、フラランスで、歴史的に伝統的な宗教であるカトリックの「若い信者」が、今のフランスでの「極右、極左」論をどう見ているかを次に紹介してみよう。



by mariastella | 2024-07-05 00:05 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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