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L'art de croire             竹下節子ブログ

開会式の顛末

7/26、Jデイがやってきた。

はじめは好天が予想されていたのに、雨もよいという予報になって心配した。
何しろ、はじめてスタジアムの外でのパフォーマンスというので、セーヌ川沿い「パリの屋根の上」でさまざまなダンスやパフォーマンスが予定されていて、聖火の走者が屋根から屋根をアクロバティックに駆け抜けるというのだから、雨で濡れて足を滑らせたらどうなるのだろうと、走者の親か友人になった気分で心配だったのだ。

事前に放映されたドキュメンタリーで、世界中の開会式、戴冠式、各種パレードなどを撮影してきたベテラン監督が、このセレモニーだけは、どこにどうカメラを配するのかで頭を悩ましていた。覆面をつけた走者のアクロバチックな動きを心配していたけれど、このセレモニーはそもそも映像配信を想定して考えられたものだから、覆面を着けているということは、同じ走者とは限らず、すでに作られている映像を編集したものでOK ということらしい。なるほど。そういえばロンドン五輪でエリザベス女王がヘリコプターからパラシュートで降りてくる、という演出もあったっけ。だから、アクロバチックでも、聖火ランナーが足を踏み外すなんてことはあり得ないのだ。今は何でもできる。でも、船がセーヌを行進するということ自体はアナログな事実だから、すべてをコーディネートすることは大変なのだろう。

観客席、雨が降りそうなら雨合羽が配布されるそうだ。(結局配布されなかった。)

開会式の切符が当日でも買えるということで誘われたがもちろん行かない。(行く人からLineで伝えてもらうことにした。)
一番高い席に空きがある。日本なら高い席から埋まるのだそうだ。フランスでは安い席から埋まっていくので一番高い席が残っている。(3時間前に来てほしいと言われているようで、トイレとかどこにあるのだろうとか、余計な心配をしてしまう。)
次の日のベルシ―での体操競技の方はすべて売り切れていたが、日本から来る人がキャンセルしたものが在パリの日本人の間でやりとりされていた。

Lineを送ってくれる人は、中止になった東京五輪の開会式の一番いい席を30万円で買った後でキャンセルしてもらった。パリの開会式の一番いい席を買ったら2900€で、今のレートだと40万円近くになる。今までで一番高価なイベント料金になったと言っていた。次の日の体操競技は270€だったそうだ。(今回の開会式の一番安い席は900€で、これも庶民的には程遠いが、他の競技も含めて多くの子供たちが招待されているし、共和国精神のアピールも忘れられてはいない。川沿いで席のない場所は90€で入れたそうだ。でも子供連れなどは、雨がひどくなったので引き上げた人も多い。一番上等な席に座った全身白のシャネルスーツの女性も途中でいなくなったとか。)

3時間前、会場に向かう人でいっぱいだと報告が来た。もう小雨が降っている。
開会式の顛末_c0175451_01121074.jpeg

2時間前、合羽は配られず、けっこう大きな傘を広げた人もいた。
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前の日には大きな傘禁止の告知が来ていたのだが。
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席には国旗が置いてある。早く来た人は、自分の応援する国の国旗と交換している。
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雨がひどくなる中、日本選手団の船は遠目に。TVの中継でも、歌手のパフォーマンスと被ったのでほとんどコメントされなかった。
開会式の顛末_c0175451_04221561.jpeg

結局ずっと雨が降って、びしょぬれになったパフォーマーらは風邪ひくのではないかと心配になる。アスリートはもちろんだ。
病み上がりのセリーヌ・ディオンとかも大丈夫だったのかなあ。
招待されたアーティストや元チャンピオンらはみな二つ返事で引き受けたというが、そこのところは「クーベルタンのパリ」の威力だろう。

でも、2900€の席についていた観客たちは雨にさらされ、スナックの販売などもないので持っていた飲みもの以外、深夜まで何も口にしなかった人もいたようだ。

終わった後のジャーナリストのコメントで、「この雨はこの開会式に跡を残しますね、でもそれは傷跡ではない。」と言っていた。エッフェル塔の向こうに沈む夕陽を期待していたのに運が悪すぎた、とも言えるけれど、これが日本だったらこの「誤算」が「傷跡」になるかもしれないかもと思った。フランス人が多いから、雨も気にせず唄ったり踊ったりと楽しんだ人がほとんどのようで、「楽しまなきゃ損」という空気の中で、笑顔があふれて、「雨天もまた個性」というかフランスらしいかも。
「パンとサーカス」とはよく言ったものだ。

聖火台が気球状で開会中ずっと上がったままというのには驚く。いろいろなリスクがある気もするが…。(夜間だけだそうだ。)
でも、送られてきたこの写真で腑に落ちた。トロカデロ寄りの客席にいる人からも、聖火点灯されて昇ってくるのが見える仕組みになっているのだ。会期中のパリの夜景となるわけだ。
開会式の顛末_c0175451_08243196.png
一番いい席は、川沿いのアパルトマンの中から眺めていた人たちだろう。雨には濡れずにすむし、TV中継も同時に見れるし、飲食もトイレも自由だし、この期間にホテルのように高額で貸していた人もいるのではないかと思う。

翌朝のラジオで、最終走者のペレクが、自分が選ばれたのを知ったのはその日の朝だったこと、共に点火する走者が誰かは最後まで知らされなかったことなどを語り、自分にとって4個目の金メダルだった、と嗚咽していた。
極右のマリオン・マレシャル(マリーヌ・ル・ペンの姪)が「グロテスクなウォーキズム」だと演出を批判していた。メランションの意見も知りたい。これから資料集めが楽しみだ。
大半の人はTVでの視聴だから、雨でも幻想的、マジック、さすがパリ、フランス、と言っていたし、選手団を派遣している国も批判しにくいだろうから、逆バイアスのロシアのメディアやプーチンのコメントも楽しみだ。

来週発売になる各種雑誌も読み比べたい。
(とりあえずは、地元新聞の「パリジャン」の26、27日の朝刊を読み比べ。)

(ちなみに私の周りのフランス人の間では冷笑的なコメントが平気で飛びかっている。私個人も、首を持ったマリー・アントワネットだとか青塗全裸衣装のパフォーマンスとか悪趣味ぶりにうんざりして見ていた。)(なにしろこちらはバロック・ダンスのフレンチ・エレガンスの擁護者だから。)

この後どんどん面白くなったので、日仏比較論にオリンピック比較文化考を付け加えるつもり。

by mariastella | 2024-07-28 00:05 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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