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L'art de croire             竹下節子ブログ

メルボルン・オリンピック

パリオリンピックにちなんで、これまでのオリンピックを回顧するいろいろな記事が出た。1900年や1924年のパリオリンピックについてはもちろんだ。

1900年については、当時の万国博覧会のノリで5ヶ月も続いて、フランス人が大半で、釣りなどもあり、スポーツともいえないものも含めてフランスが100個以上の金メダルを獲得した、などという話もおもしろかった。

でも、もっとも印象に残ったのはメルボルンオリンピックのことだ。

メルボルンオリンピックは1956年で私が記憶している最初のオリンピックだ。記憶と言っても、テレビもなかったし(というよりテレビで放映されていなかった)、どんな光景も覚えていないのだが、メルボルンというのがオーストラリアの都市であることと、日本の水泳、古川、山中などの名前は覚えている。

今考えると、1956年というのは兄の義理の家族にとって、決定的な年だった。

負傷した水球選手の写真を見ると、遠い昔の他国の話などとはもう思えない。

メルボルン・オリンピック_c0175451_06544900.jpg

このメルボルンの話、興味深いので紹介する。


16回オリンピックがNYやロンドンから17千キロも離れたオーストラリアであることを懸念する声もあった。オーストラリアは「新しい国」「太平洋のアメリカ」と売り込んだが、実際は古臭く、ヴィクトリア時代から抜け出したばかりのイギリスのようで、パブやレストランなどみな午後6時に閉まるのだった。

直行便などはなく飛行機でも2,3日はかかり、資金のない国は船を使って2ヶ月もかけて来なければならなかった。

東西ドイツが「友情のゲーム」という呼びかけに応じて同一チームを形成したのはよかったが、中国、ベトナム、朝鮮半島などは受け入れず、台湾、南ベトナム、韓国だけがやってきた。南半球だから開会は11月ということになった。

だが1029 日に「スエズ危機」が勃発した。

さらに114日に、ソ連の戦車がハンガリーに侵攻した。

オリンピックに出場する数ヶ国が抗議してソ連を締め出すことを提案したが、オリンピック委員会は受け入れなかった。それを不服してスイス、スペイン、リヒテンシュタインが棄権することになった。

選手村では「第三世界」の選手とイスラエル、フランス、イギリスの選手は分けられた。オーストラリア選手は最初は近隣の「アジア諸国」のそばにいたが、移動することになった。

開会を宣言したのも、海軍の制服に身を包んだエリザベス女王の夫君であるフィリップだった。

聖火の点灯でもハプニングがあった。

イギリス出身で獣医学科の学生だったバリー・ラーキンという青年が、箒の柄で作ったトーチで聖火を掲げて本物の走者より早く市内に入り、観衆の拍手を受けて、オートバイに先導されてメルボルン市庁舎の前で市長に手渡した。

本物の走者が来た時はもう誰も見ていなかったという。

結局事情が明らかになって、ギリシャで点火された本物の聖火が会場に入ったが、19歳の陸上選手論・クラークは性かをトーチから聖火台に移すときに手を火傷した。


さて、ソ連とハンガリーの選手団は「社会主義の兄弟」と称して同じ船に乗ってやってきて1122日の開会式を迎えたが、緊張は高まり、126 日の水球の試合においてソ連選手がハンガリー選手を殴ったことからエスカレートした。 さらに、2ポイントを得点したハンガリーの選手の目と鼻を別のソ連選手が殴り、文字通り流血沙汰になった。

オーストラリアはBBCやアメリカのテレビ局と契約せず地元のテレビ局だけ使ったのでその様子はすぐには伝わらなかった。

ハンガリー選手は救急で運ばれ、試合は停止になったがハンガリーが4-0で勝利した。

その後もユーゴスラビアに勝って金メダルを獲得した。9つの金を含む26個のメダルを獲得したハンガリー選手のインセンティブのひとつは、亡命を受け入れてもらいやすくすることだった。閉会と共に45人が亡命した。水球で血を流した選手は亡命してカリフォルニアに渡り、水泳コーチとして、後に9つの金メダルを獲得することになるマーク・スピッツ選手を育てた。

劇的なのは35歳のユダヤ系ハンガリー人で1952年のオリンピックで金、銀メダルを一つずつ、銅を二つ獲得した体操選手のアグネス・カレチで、メルボルンで金4つ、銀2つを獲得し、ブタペストに帰れば英雄だったろうが、他の選手に共感してイスラエルに渡り、イスラエルのスポーツ界の発展に寄与した。今も103歳で生存していて冷戦後にはハンガリーにも訪れたという。

フランスはアルジェリア戦争の真っただ中だったが、メルボルン大会のマラソンではモロッコ系フランス人が勝利した。

(出典: Valeurs actuelles 1/8/2024)


今でも、戦争や内戦や暴動はあちこちにあるし、出場停止や差別もなくなっていない。


それでも、このメルボルン大会、まるで別の世界のことにように感じてしまう。


歴史を、世界を見る特殊な視座としてのオリンピックはおもしろい。




by mariastella | 2024-08-16 00:05 | 歴史
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