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L'art de croire             竹下節子ブログ

ようやく新首相の誕生

9/5、やっと首相が任命された。

35歳、フランス第五共和制最年少のガブリエル・アタルから最高齢73歳のミッシェル・バルニエに。悪くないぎりぎりの選択という気がする。次の大統領選にすでに出馬表明しているエドワール・フィリップなどでは「色」がつくからだ。

アメリカでのバイデンやトランプの争いを見慣れたからかもしれないけれど、73歳なら後3年ほどの任期はもつだろう、という印象だけれど、今の若者にはもうバルニエの認知度は低いようで、指名されてすぐの期待度の世論調査では前の二人の首相を下回る42%ほどだったようだ。

アタルが長々と演説したので(それは2ヶ月もあったのだから十分準備ができたんだろうと揶揄されていた。)、終わった後に、パルニエは「あ、私がしゃべってもいいですか?」と聞いて笑いをとっていた。
バルニエは、1980年代、同性愛が刑法の対象から外されることに反対票を投じていたそうで、それが蒸し返されるのはむしろ極右受けをねらっているのだろうか。
外務大臣もつとめたし、EU歴も長いし、派閥職もないし、何より、40代のマクロン、30代のアタルと世代を異にする「賢者」の風格ということで、今のカオス状態を生き延びる可能性はある。彼と同じ世代はメランションだが、メランションには賢者の風格などまったくないから。

ルッキズム的に言っても、バルニエは、マクロンやアタルよりも長身で体格もいい。
これが逆ならどうだろう。

もしも、マクロンやアタルが極右RNのバルデラのように若く長身で体格がよかったとして、ひと世代上の高齢者にバトンを渡すとき、その高齢者がたとえばバイル―のように小柄なおじさんだったとしたら、外見からは、若さだけでなく体力や気力も劣るのではないかと懸念されてしまうかもしれない。 

その意味では、バルニエは、ドゴールやジスカールやシラクやヴィルパンのように、かなりの長身系の政治家なので得をしている。エドゥアール・フィリップやローラン・ヴォキエ、ブリュノ・ルメール(前経済相)も体格がいい。(ヴィルパンは長身だが線が細かった)

サルコジの低身長がいつも揶揄されていたことを思い出す。アンナあからさまなルッキズム差別が飛び交っていたのに「名誉棄損」とならなかったのはサルコジが「強者」であり、「権力者」批判は揶揄も含めて自由なのだ。(中国の習主席がクマのプーさんにたとえられるのが嫌で画像を使えなくしたなどという話を前に聞いたことがあるけれど、それは確かに「自由」の制限の例だろう。)

今は 映像の時代だし、ネットを通していたるところに「外見」が出回り、修正するのも簡単だ。選挙ポスターの写真についてもいろいろな話題がある。

政治のような「硬派」のカテゴリーで、知見、政策、経験、人柄、モラルなどすべてが重要である分野で、本質に関係のない「ルッキズム」が「戦略」のひとつになるのは今の世の中で「大衆」の前に姿を見せる仕事の運命なのかもしれない。

それなら、トランプとハリスのように「外見」にまったく共通点のない「敵同士」の戦いにおけるルッキズムはどうなるのだろう。ウォーキズムの国だし、「黒人、女性、アジア系」などを全て「武器にする」というのもねじれている。

高齢者であるということ自体は、「長老」という言葉もあるように、政治において必ずしもマイナスでないことは分かる。古代ギリシャの三大悲劇詩人のひとりであるアイスキュロスは
「老いていく時間は全てのことを教えてくれる」
と言った。
今のバルニエなら同性愛者への視線も完全に変わっているだろう。(アタルが公表している同性愛者だというのも時代の変化の象徴だ)

老いて視野が狭まり頑固になる人だってもちろんいるだろうが、バルニエのこれまでの豊かな政治や外交の経歴は、目先の権益に惑わされないだけの知恵と余裕につながっているだろうと思う。
同世代の私も、「老いていく時間」に教えられることが多すぎて、世界がますます広がり、それでも、本質的なことはシンプルに見分けがつくようになることを実感している。

新閣僚の任命を待ちながら。まずは、新首相バルニエが議会の修羅場でずたずたにされないことを願うばかりだ。

マクロンとバルニエ

Michel Barnier est nommé premier ministre, après sept semaines d'attente

アタルとバルニエ

DIRECT. Pour Michel Barnier, nouveau Premier ministre, « il y aura des  changements et des ruptures » さん




by mariastella | 2024-09-07 00:05 | 時事
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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