(前の記事の続きです)
聖痕者は歴史的に見て女性が多かったが、20世紀の特徴は男性、しかも聖職者でない世俗の男性が増えたことだ。
公認されたアッシジのフランチェスコやシエナのカタリナは別として、有名な聖痕者には女性が多い。
20世紀に列聖された有名どころでは、
イタリアの聖女ジェンマ・ガルガーニ
ドイツのフランシスコ会第三会の世俗会員聖女アンナ・シェーファーとテレーズ・ニューマン、
スイスの医師、アドリエンヌ・フォン・シュパイア(プロテスタントからカトリックに転向)
フランスのアウグスティヌス会修道女でレジオン・ドヌール勲章も受けたイヴォンヌ・エメ
らがいる。
聖痕についてまとめたものを書く時には紹介するけれど(イヴォンヌ・エメについては『バリのマリア』筑摩書房1994)ですでに書いている)、今ならだれでも検索するだけで、血まみれの聖痕なども含めていろいろなものを見ることができる。
「聖痕」絶対主義のカトリック系グループも存在して、「聖痕」を受けない見神者(神秘家)など信頼に値しない、などと言っているくらいだ。
確かに、「聖痕」者には他の「神秘体験」がつきものだ。
聖痕はエクスタシーと共に現れることが多いし、超常現象を伴うことも多く、それ自体が「奇跡」や「超能力」ではないが、イエスの苦しみと一体化するというある種のベースを作っている。(聖人認定などの必要要件である「奇跡」は、第三者を救う出来事に関するものだから、本人の聖痕自体は関係がない)
ジョアキム・ブフレによると、20世紀以降は、病などで苦しんで寝たきりでビジョンを見たりお告げを聞いたりする女性、というタイプの「聖痕者」から、世俗の信徒や男性が増える傾向にあるらしい。
長生きしたこともあり、写真や調査、記録が豊富にあるパードレ・ピオの場合もそうだが、「聖痕」自体が衝撃的である他に、聖痕者の多くは「神のとりなし」とされているとはいえ、難病治癒能力や予知能力があったり、空中浮揚、分身などさまざまな「超能力」の記録を残す。
自分の傷や痛みや苦しみと引き換えに他者を救うというパターンは、十字架上で死んだイエスを神とするキリスト教だからこそ受け入れられたのだろうか。
(続く)