エスペリアリスムとヨーロッパ文明ベルギーの45歳の歴史学者ダヴィッド・エンゲルスによる「ヨーロッパ文明」擁護のこの本には啓発された。そもそも文明とは何か、マクロンやバルニエも含めた今のEU至上主義がいかに誤っているかも納得できる。 へスペリアリズム(フランス語ならエスペリアリスム)というのは著者の造語だ。 ヘスペリデスというのはギリシア神話のニンフで、西の果てに住んでいる。 西は陽の沈む黄泉の国、仏教でも西方浄土だし「彼方」はいつも未知の世界だ。
エンゲルスがいうには、ギリシア・ローマから続き、ローマ帝国の国教としてユダヤ=キリスト教もヨーロッパ化して2千年続いた「ヨーロッパ文明」の特徴は「この世の果て」に向かうという意味で、いつも「超越」を嗜好していたことだ。 ゴシック教会は天に向けてそびえるようになり、パイプオルガンがポリフォニーで天使のハーモニーを表現しようとした。 そんなヨーロッパ文明だから、人々は実際に未知の「西」へと向かった。 ヨーロッパ人がアフリカやアメリカ大陸の先住民を見て「文明化していない原始的な人間」だと見下したというわけではない。それどころか、「裸」で暮らし、狩猟や採集で生きている人々を見て「エデンの園」のアダムとイヴを想起し、「彼らは原罪を犯していない」という見方すらあった。 そんな世界を「西洋文明」が「堕落」させたという意識もあったのだ。 新天地の開拓、征服、植民地主義、帝国主義という考えは、ヨーロッパの「超越志向」の逸脱だった。 「自己を高めていく」という方向が、それに促された科学技術の発展につながり、「力」を得て、いつしか物質主義へと内向する始まりとなったのだ。 現時点で例えばドイツとフランスという2国を比べると、メンタリティには大きな差がある。ところが、EUのような機関は、そのようなばらばらな国々に均一の規制を課して、合理的に、物質主義に立って、全体の利益を損なうものには懲罰的に働くというものになっている。ヨーロッパ文明が志向してきた超越的な普遍主義に立つものではない。 当然それを嫌う者がいる。でも、その多くは、外の世界に広げられた普遍主義ヨーロッパ文明を合理的に「再建」するのではなく、偏狭なナショナリズムに向かう傾向になる。 EU式のヨーロッパとは、すべての人、すべての国が自由に超越を求めるのではなく、「成長」や「発展」を数値化して縛っていく企業のようになっている。 けれども、視座を変えて見れば「ヨーロッパ文明」というのは確実に存在してきた。メンタリティがまったく異なるフランスとドイツでも、インドや中国から見れば、神聖ローマ帝国の「皇帝」としてヨーロッパを統一したシャルルマーニュの「ヨーロッパ」なのだ。 「ヨーロッパ文明」は全ての文明のように終焉を迎えるだろうし、今はその瓦解過程にあるとしても、カオスの中でこそ得られる自由の中でこそ実現できるクリエーションはあるはずだ。 その「創造」とは、「神」と呼ばれようが「美」と呼ばれようが、人種や文化の差を「超越」したヘスペリデスと出会うところで実を結ぶに違いない。 ダヴィッド・エンゲルスの「エスペリアリスム」、この言葉が妥当なのかどうかは分からないけれど、新大陸のアメリカ的物質主義よりも、ヨーロッパのエスペリアリスムの方が、日本にはしっくりくる気もする。 明治維新の「文明開化」では「和魂洋才」などと言われ、アジアで最も早く「洋才=西洋文明」を身に着けることで日本はサバイバルした。けれども、「和魂」の方も、受肉した超越神と共存してきたヨーロッパのエスペリアリスムと実は相性がいい、という気がしている。 営利、功利、効率、弱肉強食をベースにしたグローバリゼーションにの波にさらわれて「ヨーロッパ文明の終焉」に巻き込まれないことを祈りたい。
by mariastella
| 2024-09-22 00:05
| 本
|
以前の記事
2024年 10月
2024年 09月 2024年 08月 2024年 07月 2024年 06月 2024年 05月 2024年 04月 2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 カテゴリ
全体
雑感 宗教 フランス語 音楽 演劇 アート 踊り 猫 フランス 本 映画 哲学 陰謀論と終末論 お知らせ フェミニズム つぶやき フリーメイスン 歴史 ジャンヌ・ダルク スピリチュアル マックス・ジャコブ 死生観 沖縄 時事 ムッシュー・ムーシュ 人生 思い出 教育 グルメ 自然 カナダ 日本 福音書歴史学 パリのオリパラ 未分類 検索
タグ
フランス(1222)
時事(702) 宗教(521) カトリック(493) 歴史(305) 本(250) アート(203) 政治(179) 映画(156) 音楽(112) フランス映画(95) 哲学(86) コロナ(76) フランス語(73) 死生観(60) 日本(51) エコロジー(46) 猫(45) フェミニズム(44) カナダ(40) 最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||