パラリンピックと障碍者 パリのオリパラ 3
(前の記事の続きです)
障碍者を笑いの対象にすることのタブーは、21世紀のフランスでずいぶん変わった。 それでも、プロのユモリストが障碍者を笑うのを避けるのは、障碍者が社会的弱者である場合がほとんどで、傷ついても反論するグループを形成できないからだというのは前述した。たとえば、フランスで同性愛が法律的に刑罰の対象から外されたのは、1982年の8月にのことに過ぎない。それでも社会の眼は厳しいままで反対に、反対に、同性愛者に対して侮辱したり暴力をふるったりする場合は、一般刑法よりも重い刑が科せられる法律ができた。「同性愛者」のロビーはアングロサクソンの影響を受けて強力で「見える」化し、LGBT+などの運動が広まった。するとますますそれを嫌悪する人たちも出てくる。 けれども、1980年代のエイズ恐怖が収まると、カミングアウトする「有名人」、政治家、スター、アーティストなど続々出てきた。 パリ五輪の開会式では、ドラグクィーンをはじめとして、トランスジェンダー、国会図書館を舞台にした男二人と女の恋の遊びなどの演出があり、多くの国の宗教やモラルの感覚に金すると批判された。 それに対しての政府の反論は、それがウォーキズムでもなく保守主義でもない勇敢な歴史の表現だ、というものだった。けれども結果としてフランスのアイデンティティだった「普遍主義」の追求はなくなって相対主義になっている。 それがパラリンピック開会式での「障碍」の「見える」化にも通じるのだけれど、言い換えると、LGBT+も各種の障碍も、「多様」なカテゴリーとして並べるというアングロサクソン風のコミュニタリアニズムに通じている。 けれども、繰り返すが、ロビーを形成できる性的少数者と「障碍者」は異なる。 「障碍」に対する侮辱や暴力への科刑が特別に重くなることはない。 生まれついての障碍と、アクシデントによる障碍、リハビリが可能であるかどうかによっても、感受性は異なる。 一般に障碍者を笑うことには自己規制があったから、大きな問題にはならなかった。 だが今回の8/28のパラリンピックの開会式の後、「Figaro」誌のジャーナリストロナン・プランションがXでツイートしたのが話題になった。 「ハイチのパラリンピック選手団が少ないのは驚きだ。地震と銃撃戦に事欠かないというのに」 ジョークで知られている人だが、多くの非難の声が上がった。 障碍者自身が発する自虐ジョークというのは21世紀になって市民権を得ている。 アルビノで視覚障碍者のリリア・バンシャバーヌは「意地悪な障碍者」というタイトルのコメディで有名だ。(記事の終わりにリンク) 今は、宗教についてのジョークを放つユモリストの方がリスクが大きい。 前回の記事で触れたパトリック・ティムシットはダウン症についてのジョークで告訴されたけれど、フィリップ・クロワゾン(Phillippe Croizon)は、ティムシットは時代の先を行っていただけで、今は時代が追いついた、と言っている。障碍をジョークの種にできないということは障碍者が社会に包括されていないことの証明だ、と言い、パリのバタクラン劇場で大規模テロがあった後、ユモリストもカリカチュアリスとも一斉に喪に服したことを想起する。2週間後にようやくジョークの種になってほっとしたそうだ。 このフィリップ・クロワゾンという人は、25歳の時に自宅の屋根にパラボラアンテナを設置する時に2万ボルトの電線に接触、生き延びたが四肢を切断した。 2007年、障碍者として初めてパラシュート降下、2010年42歳で英仏海峡を13時間泳いで横断、その後もダカールのラリーに参加したり、潜水の記録をつくったり、記録を更新し続けてきた人だ。「障碍者を笑えないのは障碍者を社会の一員とみなさないからだ」と言う。今回はオリンピックでもパラリンピックでもコメンテーターとして活躍した。 四肢欠損というと、日本では先天性の欠損である乙武洋匡さんがあまりにも有名で(パラリンピックに関する彼の意見を検索してみた、彼はオリパラを統合して障ひとひとカテゴリーのひとつにすればいいという考えらしいが、選手村をはじめとして、両方を一度に開催するキャパシティはどの国にもないとクロワゾンが言っている)、彼の存在感の大きさを見ると「日本は進んでいる」のかと錯覚したくなるが、どうなんだろう。自虐ジョークも発しているようだ。 クロワゾンは「障碍者を恐れるのは≪文化≫に属する」と言っている。 さらに考えていきたい。
by mariastella
| 2024-09-25 00:05
| パリのオリパラ
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