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L'art de croire             竹下節子ブログ

パリ・ノートルダム大聖堂とフランス共和国の本当の関係(追記あり)

これを書いているのは、パリのノートルダムで修復後最初のミサが行われる一週間前。
このブログが公開される日には、前日のセレモニーをはじめとして、世界中でノートルダムのニュースが報じられていることだろう。

ここでは、少し別の視点を提供したい。

パリのノートルダムが国民的歴史建築で、2019年の火災の折には宗教と関係なくすべてのパリジャンが、フランス人が駆けつけて涙し、祈り、修復への寄付をしたかのように伝えられてきた。パリのノートルダムがフランスの歴史のシンボルであるかのように語られるのは、パリがフランスの首都であることや、ユゴーの小説「ノートルダム・ド・パリ」で有名であることからも分かる。

でも、パリのノートルダム大聖堂(カテドラル=司教座のある聖堂)は、フランスの歴史の中で一番権威があったものではない。

今でも、フランスの司教協議会の会長はパリではなくランスの大司教だ。(彼はパリの補佐司教を10年務めた後、2018年にランス大司教に任命され、翌年司教会議の会長に選ばれた。)
ランスは代々の国王が聖油を注がれたことで有名でジャンヌ・ダルクのこだわりでも知られている。また、サン・ドニのカテドラルはバジリカ聖堂でもあるが、代々のフランス国王の墓所のある王立修道院の大聖堂だ。

ノートルダムという呼称も、ランスやシャルトルやアミアンなどのカテドラルと同じだし、パリのノートルダムが他に比べて「格上」とか特別という歴史はなかった。

実は、パリのノートルダムが「特別」になったのは、皮肉なことに、ローマ・カトリックの勢力を一掃したフランス革命と、その後でコンコルダというローマとの和親条約によってカトリックを「復活」させたナポレオン以来のことだ。

ナポレオンと当時のローマ教皇との確執については『ナポレオンと神』(青土社)で書いている。
ナポレオンはランスで戴冠式をしなかった。
ノートルダムで戴冠式をして、教皇を招きながら、自分で戴冠し、妻のジョセフィーヌの戴冠も自分で挙行した。

このブログでも書いたけど、ナポレオンはコルシカ島出身、妻のジョセフィーヌもさらに遠いマルティニック島出身、ヴェルサイユに集まる王侯貴族にとってはもちろん、パリのブルジョワや知識人からも「差別」の眼で見られていたのは確実だ。その二人がフランスの皇帝と皇妃になることを権威づけるには、自分がローマ教皇の「上」に立つことを見せる必要があったのだ。

フランス革命の後、一時は「理性の女神」の神殿のように「模様替え」されたノートルダムは、島の男ナポレオンが華々しく皇帝に即位する晴れ舞台として、ジャック=ルイ・ダヴィッドの大作絵画と共に歴史に残ることになったのだ。

そしてパリのノートルダムは、結果的に、ローマ教皇が屈辱的に遇された場所となった。
その後のフランスが「共和国」として復活してからも、「政教分離」法ができてからも、パリのノートルダム大聖堂は「フランスの権威」として「使い勝手」があり、「観光の目玉」でもあったから、そのまま「フランスのシンボル」ともなった。

今回の「復活」にフランシスコ教皇が列席しないことがもっともだと思えてくるなにかが歴史の彼方に透けてくるというのは言い過ぎだろうか…。



(参考)

(追記)ノートルダム再開のセレモニーをテレビで観ました。
そのことを別ブログに書きました。

ふりかえると、「火災から5 年で修復」とマクロンが言ったのを聞いた時、パリ五輪を見据えてのことだと反射的に思ったが、実際、12/7の「再開」の演出は、一瞬、パリ五輪のフィナーレのような気がた。
パリ五輪ではパリのあらゆる観光資源を駆使した演出がなされていたが、ノートルダム近辺だけは、修復工事中で使えなかった、そのリベンジ? 
これでフランスの歴史や文化だけでなくレジリエンスを宣伝できる、というような。
その二日前に内閣不信任案が通ってバルニエ首相が辞職するという「カオス」で、さんざん叩かれていたマクロンにとって、本気でノートルダムの恵みと希望を確信させるものだっただろう。

しかも、五輪の開会式と同じく、雨で、出席者も司教らより先に着席、カテドラルの外で演説する予定だったマクロンが中で演説できた、など、「幸運」はいろいろあった。

何はともあれ、戦争や暴動や革命騒ぎがなくてテレビを視ていることが出来るのに感謝。

by mariastella | 2024-12-08 00:05 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

by mariastella
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