クリスマスを「待つ」待降節、12月に入ると毎日、その日の数字の窓を開いていくというアドベントカレンダーは、最近日本でも見かけるようになった。
フランスでは前からあったけれど、窓を開くといろいろな絵が現れる(24日は馬小屋の聖家族)というタイプのものが、チョコレートが出てくるというものに進化したのは1980年代くらいからかもしれない。
フランス語ではCalendrier de l'avent
という。
このaventが、avant(以前、前)と同じアヴァンという発音なので、子供たちがCalendrier de l'après (あと、後ろ)はないの? と聞くジョークがある。
確かに、発音は同じだし、「クリスマスの前」という意味にも通じるから間違えてもおかしくない。
でも、avent の advenir(来る、やってくる)から来ている。
aventure はアヴァンチュール、「冒険」で、何が来るか、先に何があるか分からない、未知のものに向かって進むということだ。
avènement アヴェーヌマン は「成就」「到来」。キリスト教では「降臨」、歴史では「即位」。
つまり、avant であれば、何があるのかすでに分かっていて、そこから以前を振り返るという姿勢だけれど(C'était mieux avant=昔はよかった)、aventの方は、そこから先は新しい何かが始まる、という未来志向だと言ってもいい。
そういう意味なら、聖家族でなくても、子供の誕生を待つ家族にとっては誕生はaventの出来事で、子供が育った後で親が「前はこんなだったよね。」と振り返るのがavantという感じだ。
今は、地球環境、戦争、人口問題、先行きの分からない不穏な世界だ。
でも、前はこんなではなかった、と振り返ったり、今は核戦争で人類が滅亡に向かっている時代だと脅すより、「今よりいい世界」は可能だ。未知であろうと、新しい何かに向かって進んでいこう、と前向きになるほうがいい。
キリスト教では、せっかく「降臨」した神の子も悲惨な最後を遂げるわけだから、「今よりいい世界」はたやすい一直線の道ではない。「一度死んでも、殺されても、息を吹き返して希望のメッセージを発し続ける」というわけだ。
aventのカレンダーを開くたびに、「降臨」の後も、まだ冒険(aventure)は続くのだ、と心したい。