マリア・ワルトルタの「ヴィジョンやお告げ」の信憑性Joachim Bouflet(ヨアキム・ブフレ)がカトリックの20人の「神秘家」を取り上げて、彼らの「神秘体験」が偽物だと一刀両断している大部の本(Imposturesmystiques)(神秘体験の詐欺)が出て、ショックを受けた。 著者が以前に出したやはり大部の著書「Faussaires de Dieu」(神の偽造者)は20年以上前に購入して手元にある。
そこでは、マルト・ロバンの超常的な断食や聖痕についても疑問が呈されていたので、そこにばかり集中していたので気に留めていなかった。けれども今回は20世紀の20人の「神秘家」にしぼり、中でもマリア・ワルトルタMaria Valtortaが詳しく取り上げられている。1961年に亡くなったイタリア人で、長年寝たきりで、いろいろなビジョンを見たり言葉を聞いたりしたものを書き留めた1万5千ページが17巻の書籍になっている。 著者は彼女の言葉が神秘体験によって伝えられた真実として伝えられたメカニズムについてくわしく述べているそうだ。神秘体験を「騙る」人には共通点があって、幼少時の虐待などのトラウマ、社会的承認が得られないことへの欲求不満、ゼロから神秘体験を「騙る」才能(?)とメカニズム、周りの思惑などが一致することなのだという。 メジュゴリエのお告げについても徹底的に「詐欺」を解明しているのだけれど、マリア・ワルトルタについて私がショックだったのは、その神秘体験の否定ではない。検索すると、日本語でも多くの翻訳が出ていて、キリスト教書籍として日本では認められているという実情だった。 この「神秘家」が微に入り細に入り、「福音書」には出てこないイエスの生涯の細部を描写した「私に啓示された福音書」が、『第五の福音書』としてヨーロッパのカトリック出版界で権威を付与されていることがある種の「お墨付き」になっているのかもしれない。。
ブフレが偽神秘体験に興味を持つようになったのは、聖痕で有名なパードレ・ピオに彼の死ぬ1ヶ月前に会って話したこと、やはり聖痕やヴィジョンで有名な福者アンネ=カトリーヌ・エメリッヒについて研究し始めたことだったという。エメリッヒは19世紀の神秘家で、ヨーロッパにおけるカトリックの事情は今と違う。(ブフレは「神の偽造者」の中で彼女について述べている。
そもそもマリア・ワルトルタの「福音書」は、「禁書」に指定されていた。ところが、彼女の死後に第二ヴァティカン公会議が禁書制度を廃したために、また出版され始め、スペイン語やフランス語訳が1970年代半ばに現れた。そして21世紀になって新たな「ブーム」を巻き起こしているという。ヴァティカンは、この書物について、禁書がなくなったからと言って、禁書にされていた書物のモラルの不当性は生きている、と明言している。 しかし、カトリックが「神秘」によって人を回心させようとするやり方を排した21 世紀の世界で、いまだ多くの人を惹きつけ続けているということだ。
ブフレは、ワルトルタの「著作」とその流布について、まったくの「詐欺」であることを緻密に、徹底的に証明している。
(マルト・ロバンについてはどうかというと、まだ福者には認定されていないもののすでに「尊者」の称号を得ている彼女の「聖性」についてはブフレも認めているから、この著作には入っていない。彼女が後世に残した功績も認め、「聖性」と「神秘体験」は分けて考えられるべきだという意見だ。だから今回の著作の20人の中にはもちろん入っていない。でも、列福や列聖においては、「聖性」と「奇跡」がつながっているように、線引きは難しいところだ。)
以上、気になったので覚書。
by mariastella
| 2025-01-08 00:05
| 宗教
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