以前もどこかに書いたのだけれど、今のフランスの危うい議会で、二度目の首相に指名されたフランソワ・バイルーの読み方について。
日本語表記はバイルかバイルー(フランス語は最後の母音が少し長くなるのでバイルーが近い)だが、フランスのメディアでは相変わらず「バイルー」と「ベイルー」が混在している。「yはi+i」だから、教科書的に行くとBai+ilouでベイルー。
友人であるバロックダンサーのChristine Bayle はベイル(最後のeは発音しない曖昧音)だ。固有名詞だから、二通りの読み方があるのだろう。だれもバイルと呼ばない。
レバノンの首都ベイルートはBeyrouthで問題ない。e+i=エだから。
で、日本人としてはバイとベイはまったく違うので以前はカタカナ表記にいつも迷っていたわけだが、今はバイルーとなっているようだ。
今回首相になってから彼の名は毎日メディアで出てくるからか、あるコメンテーターが「ベイルー」と発音したら、別の誰かが「バイル―」だと訂正した。
おお、これで公式にはバイルーなんだと納得したが、すぐにベイルーという発音もあちこちで復活した。
要するに、フランス語しか話さない環境で育った人には、ベイとバイのような二重母音の区別が曖昧で、綴りに引かれてベイルーと発音する人が少なくなくてもスルーされるということだ。
これも前に書いたけれど日本語も、二重母音は音便で長母音になっても表記通りの読み方と併存することがある。たとえば佐藤恵子(さとうけいこ)さんなら、「さとーけーこ」さんと発音するはずなのだけれど「さとうけいこ」さんと発音しても、必ずしも「間違っている」とは認識されない。文字につられてはっきり「けいこ!」と呼んでも、呼ばれた本人も気にしないだろう。
次に来る音にもよる。たとえば「遺影の撮影があります」「衛生上」などという時、いえー、さつえー、えーせーじょー、と必ず「音便」するとは限らない。表記が発音をまとめてしまうのだ。
フランス人にとって「ビル」と「ビール」、「町」と「マッチ」の違いは聴きとるのが難しいけれど、日本人にとっては混同のしようがない。
バイル―が首相になったことで、あらためてその発音を本人に正した人がいて、ベイルーと発音している人を訂正したのだろうが、区別が聞えない人にはもとより意味がなかったということだ。
発音と表記の関係にはいつも迷わされてしまう。
(余談だが、バイルーの特徴の一つは、一見好々爺のような雰囲気なのに、家庭的なものをいっさい表に出さないところだ。マクロンのカップルは好奇の目にさらされてきたし、オランドもサルコジも、カップルの別れや出会いが報じられてきた。
バイルーは、大学で知り合った妻とずっと添い遂げていて、6人の子供、21人の孫がいて、子供たちはいずれも医師、獣医師、大学教授など確かな社会的地位にある。それを表に出さないが、その安定が、彼の隠れた強みになっているのかもしれない。)