2022年に公開された社会派映画をArteで視聴した。
コロナ禍後はすっかり新作映画を観に行かなくなったから何でも新鮮で、ヴァンサン・ランドンとステファヌ・ブリゼのコンビは妥協のない映画作りだから興味があった。
今まで労働者側から描いていたものを今度は管理職側から描く。
マルチナショナル企業のフランスのトップ役が、テレビのプレゼンテーターだったマリー・ドリュケルで、美女で冷酷、ネオリベの権化のような完璧な「悪」というのも印象的。
ランドンの役は、地方の工場の管理職で、もとは工員や組合の話もよく聞いていたのに、「効率化」のリストラを上から強要されて板挟みになる。しかも、仕事にかまけて妻との週末は7年間に6回しかないほどの激務で、離婚を提唱される。その妻役が実際に彼の前妻だったサンドリーヌ・キベルランで、苦しむ様子に迫力があるのもやりきれない。
カルロス・ゴーンが日産にやってきて「再建」した時に、日本人経営者ならとてもできないようなリストラを断行したことを思い出した。日本人の知り合いが、「アメリカ人がやるなら分かるけれどフランス人だとは…」と驚いていたのを覚えている。
「労働者の立場を思いやる個人の感情より企業の利益を優先しろ」という原則を堂々と口にする女性上司は、大切なのは労働者ではなく株主だと言い切る。
全体から見ると地方の中間管理職でしかないランドンの役は、それなりの資産を築いたという意味では「成功者」なのだけれど、家庭を顧みなかったつけを払わされて、20世紀末からなりふりかまわなくなった金権主義、コスパ、数字化できる利益至上主義経済の非人間性に押しつぶされる。
ステファヌ・ブリゼとのこれまでの映画のように、このような非人間的世界を告発する映画なのだけれど、そして、最後に提示されるあまりにも巧妙な「餌」を拒絶する「良心」の発露に少しほっとするのだけれど、結局、少数の権力者以外はみんなが「不幸」になるのだから、後味はよくない。
それでも、こういう映画でも時々観ておかないと、この世の不条理、不公平に麻痺してしまいそうだから、貴重な時間だった。
ヴァンサン・ランドンって、見た目は二枚目俳優でも何でもないのに、実生活ではもてまくっているのだけれど、トラウマやら病気やらも抱えていて強烈な存在感のある人だなあとあらためて感心した。