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L'art de croire             竹下節子ブログ

ジョーン・バエズのレジスタンス

ボブ・ディランの神秘体験について読んだ数日後にジョーン・バエズについてのドキュメンタリーを視聴した。

ボブ・ディランの歌については思い出も思い入れもないのだけれど、ジョーン・バエズとなると「Donna Donna」や「We shall overcome」のように1960年代から歌ってきたものもあってなつかしい。

ドキュメンタリーを見て、バエズがディランのサクセスに大きく寄与したこと、それでも、ふたりのデュオのツアーの間にだんだんと違和感、齟齬を感じて苦しんだことなどが伝わってきた。

バエズの歌が公民権運動などのプロテストソングだというのは知っていたけれど、そして、日本でも、そういうタイプのフォークソングが流行っていた時代だけれど、今思うとあらためて、(少なくとも私には)内実がなかったなあと思う。

ギターを弾きながらWe shall overcomeを何度も歌ってきたけれど、そしてキング牧師らのデモを頭の中でイメージしてはいても、実際は、まさにただの「イメージ」にすぎなかった。

それは当時のアメリカの多くの反戦フォークシンガーも似たり寄ったりで、実際にコミットメントした人はほとんどいない中、バエズだけが、キング牧師に文字通り寄り添い、白人市民が石を投げてくるような環境で黒人の子供の手を引いて歩き、ほんとうにリスクをものともしなかった。

彼女の父親がメキシコ人で、彼女の肌が妹の肌と違って、少し暗い色だったことがメッセージ性を持っていたことなど、日本人にはわかるはずもなかった。


最も感動したのは、彼女が高校生の時、ソ連からミサイルが発射されたことを想定した避難訓練が何度もあって、彼女は一度も教室から離れなかったというエピソードだ。

それは、ミサイルの発射がわかってから避難しても「もう遅い」という理由だった。今なら別だが、1950年代半ばだから、ミサイルの発射の確認など直ちに把握して危険地域の学校に警報を鳴らすよう伝達するなどおそらく不可能だったのだろう。物理学者であるバエズの父親もそれを認めて、娘の行動を是認した。それで、高校側から何度も注意を受け、彼女と家族はすっかり「秩序破壊者」のレッテルを貼られていた。

ファミリーは絶対平和を目指し、「一個人の命は国の命運より貴い」という信念のもとにクエーカー教徒になった。

なるほど、平和と平等の志向は家族ぐるみ徹底していたのだ。

家族の結束は強く、そういう家庭に育まれた強さがバエズの強さだったのだ。


私が小学生の頃、定期的に「火災訓練」というのがあった。授業時間中にサイレンがなると、みんな秩序正しく階段を降りて校庭に集まらなくてはならない。

火事の可能性など少ないのに定期的にそんなことをするのは意味がないようにも思えたが、まあ時々の非日常行事ということで、特に抵抗感があった記憶はない。

その頃の私たちを指導していた先生たちの世代は空襲警報の体験者ばかりだったろうと思う。そんな火災訓練は今でもあるのだろうか。


関西や東日本震災の後では、地震や津波のための避難訓練が学校で行われているようだ。特に津波などの危険地域では、どこの学校や公共施設でもいざとなったらどこに避難するか、避難経路の検討も具体的な対策がたてられているのだろう(と思いたい)。

今はスマホの普及を前提として、地震が発生すれば体感する数秒前にアラームがなるとか、北朝鮮弾道ミサイルが発射されるとJアラートが鳴るとか、いろいろあるようだが、リスクとストレスとの関係とはどうなんだろうと思わされる。


もちろん、自然災害の予防措置と、ミサイルの警戒とは全く違う。


コロナ禍の時の不安を煽る一連の「要請」や「義務」のコミュニケーションのことも思い出す。

けれども、たとえば高齢者施設や病院や障碍者施設、宗教施設などの一律の面会禁止や閉鎖によって孤立したり生き甲斐を失ったりして鬱状態になり亡くなった方なども少なくないと今は分かってきた。


共通するのは「非常時」という設定の元で、「上」からの指示に従わされるところだ。

それらすべてに「反発」するのが正解だなどとは思えない。


けれども、警報の後でたった一人教室から動かない高校生だったジョーン・バエズが、公民権運動のデモのうねりの中で不当に差別される弱者との連帯を徹底的に貫き通した姿を思う時、「生き方」の芯をどこに置くべきかということを、自分がこの年になってなお考えさせられる。


by mariastella | 2025-02-13 00:05 | 思い出
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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