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L'art de croire             竹下節子ブログ

DIALOGUE (対話) 池田知穂と師井公二のコラボ展

6/3、パリのベルタン・ポワレ文化センターで書家の池田知穂さんと、師井公二さんのインスタレーションによるコラボ展のヴェルニサージュにお邪魔して池田さんのパフォーマンスを拝見した。

久しぶりのリヴォリ通り。

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通りに面したウインドーにあった4点。山・花・海、そして雪。
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開場の第一室。左が「千載一遇」、右が「興物為春」。
この展示会にふさわしいシンボリックな言葉だ。
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池田さんと師井さん。お二人のたたずまいと作品のコラボのイメージがぴったり。
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お二人の右に見える「無」は、吐く息とともに顕わになる筆勢を敢えて呑み込んで、その後でそっと現れる境地であるかのように見える。
すべてそうだが、漢字の意味と切り離せない制作であり鑑賞であるというのが「書」の可能性と同時に限界であることの妙味だなあと思う。
ここに配された師井さんのオブジェの持つ緻密さと時空を閉じ込めたマグマのような謎めいた強靭な静けさが、周りを囲む「書」の奔放さまでを受けとめているのは見事だ。


気に入ったもののひとつ。「五風十雨」。
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「5日に一度風が吹き、10日に一度雨が降る」のが農作に最適の天候であり、転じて、穏やかで平和な社会の意味にもなる。天候の説明としても、なるほどなあ、と実感で納得がいくし、「平和」とか「人生」とかも、事件や争いがなにひとつ起こらない「太平」とか、苦労がまったくない一生というのには「いのちのときめき」がないよなあと思う。
この書では、「風」の速さ、奔放さの後に続く、穏やかで潤いをもたらす優しい雨の取り合わせが抜群だ。


下は、第二会場にあった二点。左は「墨」、右は「風の音」。二つの間にあるのは師井さんの作品。これもダイアローグというタイトルにふさわしい。風のように揺れる書の間に、堅固な直方体が置かれ、その高さは二つの掛物の長さの中間にあり、上に小さな立方体が、まん中でもなくまっすぐでもなく置かれている。
ここでのダイアローグとは、「対話」とか「会話」でなく、生きている限り続く「自問」のやりとりなのかもしれない。
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ひときわ優雅な「夢」。漢字であって「仮名」ではないのに漢字が夢のように解体している。バックにある絵の女性から湧き上がってきたような絶妙のバランス。
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この展示会の目玉作品のひとつで非売品の「枕草子: 春はあけぼの夏は夜 秋は夕暮れ冬は早朝」。春と冬が右と左の上下で、夏と秋が下に並んでいることで、二つの季節の筆致の違いが明確だ。「あけぼの」というひらかなと「早朝」という漢字の対照的な筆致も印象的で、最初の一字と最後の一字も季節の円環を促しているかのようだ。
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これがパフォーマンスの会場。フランス語の新聞紙が敷かれ、周りには使用済みの半紙が重ねておいてある取り合わせが面白いなあと思っていたら、使用済みの半紙はパフォーマンス後の作品をすぐに壁に掛けるために滲みを吸い取るためのものだった。
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書くのはこの二文字。
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作務衣から「勝負服(?)」に着替えてパフォーマンスの場に登場した池田さん。堂々としたオーラと楽しそうな表情のコントラストが観客の心をつかむ。
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壁に掛けられたところ。
馬と車でなんとなく「馬車」の雰囲気が。二字熟語が横に並んで書かれることはないから、もし「馬車」を書くなら上と下になるだろう。でもこの二文字のチョイスが横に並んだことで、なんだか疾走する馬車のダイナミズムが現れた。
パフォーマンスを見た直後の作品だからか、池田さんのエネルギーだけではなく、息をのんで見守っていた人々の感嘆の震動をまとっていることまでがまだはっきりと感じられるせいだろうか。
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萩の神社からというお神酒がふるまわれた。
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質問をしてもいいとのことだったので、友人のために通訳した。

漢字や平仮名を書く時と2025という数字や署名のアルファベットを書く時との違いを聞いた。(まったく別物で、押印の代わりのサインだった。)
彼女が息を吐く時に声を発するのが苦しそうにも見えるが実際はどうなのかという質問には、内部に充満した「気」を書の形で出すには息を止めていては不可能で、吐くことが必要で、その時に声が出る、でも苦しくはなくてとても楽しい、けれども、笑顔になったら力が抜けて書けなくなる、という答え。

実演が好き。音楽と同じで、完成した後で掛かっている作品は録音再生に似ている、ライブ演奏での聴衆との共有でしか実現できないものがある。書のパフォーマンスも同じ。
筆が置かれ、筆が運ばれるすべての流れを先取りする「気」がすべて。
舞踊や武道とも通じる。腰を落として自由に動けるように鍛えるのは武道と同じく日頃から訓練を欠かさない。

私は『和の思想』にあったように、日本人がそもそも漢字を「くずす」ことによって書の世界に「間」(ま)を作ったことが決定的なのではないか、池田さんの書は「間」のクリエーションに通じるのではないか、と質問した。(昨日の記事参照)
池田さんは、自分はまさに、黒い墨を置くことで「白」を書いているのだ、とおっしゃった。

では、現代中国には日本のような現代アートとしての書道はないのだろうかと尋ねると、彼女のような形では存在しないとのことだった。

漢字の書体にも楷書だけではなく草書、行書、隷書といろいろあって装飾的な自由もありそうだが、やはり「平仮名」による表音を表意の感じと組み合わせるという日本語表記のアクロバットは、「数字」の存在と同じくらい画期的なことだったとあらためて思う。

調べてみると、中国の現代書家の書を解説している記事を見つけた。


そこで目に留まったのは、「伝統が70%、個性が30%」というのが「書道の法則」だという言葉だ。
なるほど。
ひょっとして、中国由来の「書道の法則」は、「漢字」に対応していて、仮名文字ができた後の日本には必ずしもあてはまらない。平仮名によってはじめて、「間」の作り方、池田さんの言葉でいうと「白」の書き方、が登場したのかもしれない。
だからこそ、その「間」に呼応して、師井さんの作品との「対話」が感じられるということなのだろう。

さらに言うと、その「間」を創る直前の時間(バイオリニストが弓を動かす瞬間、ダンサーがプリエをする瞬間)にすべてが込められているので、「間」は空間だけではない。「間」の先取りこそが「いのち」であり「創造」なのだ。

私の子供の頃の習字の先生が毎回口を酸っぱくして繰り返していた言葉がある。
「縦線とすれば横すべし、横線とすれば縦すべし」というものだ。

まさに、弦楽器で弓を置いてこするのではなく、こするのと反対方向に弓を振り上げてこそ音が始まる、ダンスで爪先立ちやジャンプをするにはまずひざを曲げて床に体重をかけなくてはならない、などということと同じだ。
書家は、いや、あらゆるアーティストは、いのちが吹き込まれる「創造」の瞬間の先取りを永遠に追い続ける。





by mariastella | 2025-06-06 00:05 | アート
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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