即位後の公式肖像画。67歳という高齢は否めない。この時の王笏の持ち方と体の向け方が、ナポレオンと逆なのが、栄光の乏しさの原因だったなどという人ともいる。
ナポレオンはやはり若かったというか、全盛の頂点で皇帝になったのが見て取れる。
ノートルダム大聖堂でのナポレオンの戴冠というとルーブルにある有名なダヴィッドによる大作が思い起こされる。10mx6mの大作だ。当然、シャルル10世の戴冠と聖別式も大作である必要があった。
ルーブル美術館の七つの暖炉のホールを「王の栄光」の部屋として掲げられる予定で巨大な絵が聖別式の5年後に完成したが、七月革命によって陽の目を見ることができなかった。
聖別が終り、王太子が王に接吻し、大司教が「Vivat Rex」と宣言し、会衆が応じて叫ぶ瞬間をとらえたものだ。(「王様、万歳」)
このオリジナルは巻かれてベルサイユ宮殿に保管されているそうだが公開されていない。この聖別式展示会ではその小ぶりのレプリカが展示されていた。小ぶりといっても十分大きい。

この構図について特筆すべき興味深い出来事がつい最近のサントペテルスブルクであった。まず、この聖別式を記念してロッシーニが作曲したオペラが存在するということを知ってほしい。
このオペラが最近(3月)、サントペテルスブルクで上演されたのだが、その最後のシーンが、なんとこの絵をそのまま再現したものだったという。絵と同じ衣装を着けた人々が少しずつ登場して、王太子が王に接吻するシーンで幕となるという。数週間前にロシアに行ってそのオペラを観た人が写真を見せてくれた。
すごい。今、フランスで、ロシアと言えば、プーチンとかウクライナしか連想できないし、プーチンとマクロンの関係も危機的な様相を呈しているのだが、サントペテルスブルクでシャルル10世の聖別式にちなんで創られたロッシーニのオペラを豪華な演出で、絵画のシーンを再現しているというのだ。
そもそも、今、そう簡単にロシアに行けるのだろうか、と思うが、劇場で撮った写真を見せてくれたのはロシア人の歴史学者ナタリア・グリフォンさんだ。彼女はナポレオン戦争時代のロシアの将軍たちについてのフランス語の本も書いている。モスクワ遠征の時の「冬将軍」の話はこれまでフランス視点でしか読んでこなかったけれど、モスクワから撤退して火をつけたロシアの戦略の底の深さについての著作もある。ナタリアさんとは、この「最後の聖別式」展で彼女がベルサイユの王党派グループのためにガイドをしていた時に知り合った。いやあ、今のフランスで、ばりばりの王党派がいて、すべての展示について口々に蘊蓄を傾けるのには驚いた。確かにこの展示会に歴史愛好家は来ても、観光客がぶらりと訪れることはないにしろ、ここまで王党派を体現している人たちってすごい。特に女性の服装は独特だった。男性はマッチョな雰囲気。
ナタリアさんとメールを交換し、また会うことにしたので、今のロシアの状態とか、プーチンについてだとか、いろいろ質問するのを楽しみにしている。
ソルボンヌのフランス・ルネサンスの学会で、アマゾン流域民俗学者のブラジル人と出会い、ブルボン王朝最後の聖別式の展覧会で、ロシアの歴史学者と出会うなんて、パリって不思議な町だ。
(続く)