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L'art de croire             竹下節子ブログ

普遍主義に立脚する民主主義の試みを

この本は、必読。目を開かれる。

セネガル出身のジャーナリストの処女作。


アフリカと言えば、2010年あたりから、こんなイメージがいきわたるようになった。


北アフリカの「アラブの春」は次々と挫折、民主主義は根付かなかった。国連軍がリビアのカダフィを倒した後、ますます不法地帯になり、イスラム過激派を制するために協力して感謝されていた(?)フランス軍が、マリやブキナファソなどから次々と撤退させられた。イギリス、フランス、ベルギーなど過去の「宗主国」の既得権は次々と剥奪され、その後に中国やらロシアが「開発」に協力する友好国としての影響力をじわじわと広げた、内戦が繰り広げられ、集団誘拐があり、テロリストの巣窟となり、リンチもあるetc... 


ところが、実際は、例えばあれほどの内戦があったルワンダは、カガメ大統領の独裁政権下で、今や「アフリカの奇跡」と呼ばれるほど目覚ましい経済成長を遂げている。

インドや中国などの例を引くまでもなく、グローバルサウスだとか新興勢力とか言われる国も独裁に近い政権に支配されているところが少なくない。


これが何を示しているかというと、「民主主義」と「経済成長」、「発展」とがセットになっていると思われてきた「西洋近代以降」のシェーマがもはや機能しないということだ。

西洋のデモクラシーはギリシャの都市国家をモデルにし、修道院運営(すべての僧が同じ一票の権利を持って運営上の決定に参加した)に伝えられてきた。フランスの場合でいうと絶対王政の時代を経て、「近代革命」が起こり、王への権力集中を廃して「人権宣言」のもとに民主主義を打ち立てた。(実際はそう簡単には行かず、ナポレオンが皇帝になったり王政復古があったり共和制も何度も変わった)

王家を存続させた国も、立憲民主主義という名のもとに「民主主義」を是とし、法の支配、人権を掲げる近代国家として発展を続けた。


このようなモデルがずっとあったので、「民主主義」が根付いていない国は「後進国」であり遅れている、独裁者などの野蛮な体制を倒して民主主義国家として発展しなくては、というパターンができて、至る所で「革命」が起きた。

ところが、「革命」の後、軍事独裁が始まるなどして、「民主主義」の神話が根付かないことが分かった。

アフリカなど西洋の旧植民地国家では、そもそも「民主主義の手本」である宗主国から対等に扱われていなかったのだから、支配、搾取構造による歴史のトラウマの方が深刻だ。

その上、冷戦後の新自由主義経済においてはすでにモラルが語られなかったし、トランプ政権を見ても「西洋民主主義」の賞味期限が切れているのが明らかだ。


アフリカで資源の豊かな国であれば、民主主義など優先せずとも、経済は回り、「西洋デモクラシーは「発展」のための必要条件でない」ことが分かってきた。


実際、アフリカに投資して豊かさをもたらしている中国は、政治や社会の「新しいモデル」を体現し提供している。


「革命で独裁者を倒して民主体制を打ち立て、西洋民主主義国の仲間になることによって経済成長を実現する」というこれまでの順番に意味がないことが分かった。そのため、独裁体制による弱者切り捨ては続いているのだ。


冒頭に紹介した本で著者のオスマン・エンジャが提唱するのは、今までの西洋デモクラシーを、「新しい脱西洋デモクラシー」として再び「ユニヴァーサルな価値」として提供することだ。

そもそもユニヴァーサル(普遍的)という意味には二つある。一つは、キリスト教が唱えたように、すべての人間は性別も国も身分も神の前では区別がなく、相対的な弱者をその都度助け、支え合おうという意味の普遍だ。それが、ローマ帝国がキリスト教を国教にして以来、「普遍」の意味が「帝国の普遍」へと変わった。すなわち、「ローマ法」がすべての領土に適用されるように、キリスト教が権威、権力とセットになって受け入れられなければならない、ということになったのだ。

ローマ帝国こそが普遍を体現するわけだ。


ナポレオンもそちらの意味での「普遍」を体現しようとした。宗主国のそんな「普遍」の権威的きらびやかさに魅せられたから、独立を果たした国の独裁者がナポレオンになろうとする。(中央アフリカのボカサの例を記事の最後に添付する)


今アフリカでは、人口的にも、領土的にも、資源的にも、自分たちは世界を支配できるポテンシャルがあると考えられている。(ルワンダは2050年には世界でトップクラスの経済大国になるだろうと自負している)

世界を経済的に支配するにはアフリカ連合からアフリカ合衆国などを形成することが目指されている。西洋の植民地にされてきた過去へのリベンジでもあるだろう。

しかし、オスマン・エンジャは、「汎アフリカ主義者」は「デモクラシーの墓堀り人」だと警鐘を鳴らす。


1970 年頃までは、アフリカ諸国にも「民主主義」への期待が存在していたが、今や、マリ、ブキナファソ、ニジェールなどでは民主主義への期待度が著しく下がっている。その理由は、まさに今の民主主義が普遍民主主義ではないからだ。

真の自由と平等を求める若い世代は、もはや西洋のユマニズムやデモクラシーを受けつけなくなり、汎アフリカ主義を標榜するようになった。

そして汎アフリカ主義者は独裁政権を支持している。独立戦争の後の一見民主主義を掲げる指導者たちが自由を弾圧したことに遠因がある。

アフリカ統一運動を推進したガーナの初代大統領クワメ・エンクルマは、一党独裁体制を敷いたが今でも建国の英雄だ。チュニジアのサイード大統領のように、革命指導者でない法学者による独裁も存在する。


そんな状況下で、オスマン・エンジャが主張するのは、「民主主義と発展」を新しい形でペアにすることだ。経済成長は、「本来の普遍主義に基づいた民主主義の実現」と結びつくものでなくてはならない。

「西洋民主主義」という「西洋ヘゲモニー」に対抗してアフリカの力を強大化するのではなく、真の人類普遍の自由と平等と助け合いを実現するための新しい民主主義を構築すべきだ。世界から強権的独裁者の連鎖を断ち切って、弱者にやさしい真の連帯を実現することを目指さなくてはならない。「大アフリカ連合」が覇者になり「西洋」にリベンジするという構図で人類の過ちの歴史を繰り返してはならない。


こういう視点で地球の未来を考えていくのは新鮮だ。彼のような論客の声が世界中の多くの人に届くことを祈るばかりだ。



ボカサについてのこの下の記事を読み返すと、7 月に観に行った「最後の聖別式」展を連想せずにはおれない。




オスマン・エンジャについての記事。



by mariastella | 2025-08-21 00:05 |
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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