トクヴィルの先見の明と宗教アレクシ・トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』の観察と論考、デモクラシーのさまざまな逸脱や退化について驚くべき明晰さで述べたもので、150年経っても古びないどころか、歴史の考察とこれからの課題におけるツールとなり続けている。 部分が引用されることは多いが、全体の構成を見てもらうためにまず、日本語での解説をリンクする。 日本にいた頃は、トクヴィルの「アメリカのデモクラシー」というと、当時のアメリカのデモクラシーの観察記録というドキュメンタリーのニュアンスや、アメリカのデモクラシーのお手本としての「すばらしさ」を書いたものという印象を持っていた。 トクヴィル本人についてはあまり考えたことがなかった。 ところがトクヴィルはマルゼルブ(ルイ16世の裁判で弁護し、自身も後で処刑された)の曽孫にあたり、生粋の王党派の貴族の家系、両親もロペスピエールの没落まで監獄に捕らわれていた。デモクラシーとか共和国主義とかの「理想」と現実の中でトラウマを受けた立場にあるわけだ。 法官としての自分の立ち位置を求めるようにしてアメリカの監獄視察ということで10ヶ月の旅に出た。 トクヴィルはデモクラシーの本質は「制度のシステム」だけではなく「国家のモラル」であるという。才能や社会階層や財力や権力の「平等」は単に法の下の平等ではなく、実際の生存条件における平等である。それは人類社会を進化させる神の導きだとトクヴィルはLouis de Kergorayへの書簡で述べている。 トクヴィルは貴族の高貴な感情や振る舞いを評価していたがそれを表に出す傲慢さに批判的で、一方、庶民の率直さを評価しながら下品な振る舞いを軽蔑していた。 7月王政では中道左派に属していたが、1848年の第二共和制の設立には共鳴して短期間だが外務大臣の職に就いていた。国家の植民地主義は容認していたが「自由」の価値は捨てなかった。一党支配が独裁に結びつくとして二党制を主張し、1850年に報道規制が現れた時は、今は誤っているとされる古い考えにも発言の機会を残すべきだとしている。革命の際に王権と民衆との間をつないだエリート貴族のような存在がなければ、革命政権も簡単に独裁に変化してしまう。 フランスの王制は独裁ではなかった。自由はあったが、「王政下の自由」は「政治的自由」ではなかった。しかし、階級の壁はあるにせよ、啓蒙の世紀を確立して王制を倒すに至った思想の自由が、革命を実現させたのだとトクヴィルは述べる。 トクヴィルはすでに「アメリカのデモクラシー」の中で、デモクラシーのリスクについて語っている。 「デモクラシーのモラル」が個人主義とエゴイズムに傾くことの危険性だ。 エゴイズムはある種の人の過剰な自己愛として昔から存在した。しかし個人主義は個人が考えた結果、大きな集団から離れて自分や家族だけの小さな社会を築くことだ。関心の対象は自分の周りだけになるので、大きな集団の政治には無関心になり、その結果、人民に民主的に選ばれたというオーラを持つ権力者が社会を自由に支配することになる。 そんなデモクラシーを再生するには二つのやり方がある、と、トクヴィルはアメリカで観察した。人を個人主義の罠から救う社会参加としてのアソシエーションと宗教だ。 アソシエーションや宗教のメンバーとして、自分の周りだけではない広い視野で社会を見て、人々と議論しなくてはならない。 トクヴィル自身はカトリック教会から離れていたが、死去する前にはカトリック司祭から終油の秘跡まで受けて、「天国」への旅立ちの用意に事欠かなかったという。
今のアメリカが、行き過ぎたウォーキズムや社会的公正の反動でトランプ「独裁」の状態にあることに日々驚かされながら、トクヴィルの言葉をあらためて考えてしまう。 というのは、フランスほどの過激さや徹底さはないにしろ、アメリカも日本も基本的に「政教分離」を認めているのだけれど、なんと、アメリカの憲法には、「無神論者は公務員になれない」と明記されている。 これが実際どの程度どのように適用されているのか、有名無実のものなのか知らないが、フランス人的に、または日本人的に考えると驚きで、やはりアメリカはピューリタンが「約束された神の国」として乗り込んで「建国」した国なのかなあと思ってしまう。 トクヴィルの観察や感想を比較文化的にもう一度読み直してみれば、今の「アメリカのデモクラシー」の実態を理解する参考になるかもしれない。
by mariastella
| 2025-10-23 00:05
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