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L'art de croire             竹下節子ブログ

Adieu Slayman スレイマンよさらば

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幼児洗礼を受けているが、教会に通わずクリスマスも祝わないタイプのフランス人の両親のもとで1986年にベルギーで生まれ育ったブルノ―・ギヨーという人が、イスラム教原理主義に近いサラフィズムのイマムとなった後でカトリックに転向した記録。
イスラム原理主義では、棄教するのは死に値するから、堂々と手記を出す人は少ない。勇気ある貴重な証言だ。


15歳の時に地元のサッカーチームに入り、モロッコ人の仲間に連れられてコミュニティを見学した時期がラマダンだった。夜になってみなで食卓を囲む高揚感などを体験して、間もなく、イスラム教徒になった。カトリックのようにカテキズムを学ぶ必要がなく、イマムの前でアラーのみが神でムハンマドが予言者であることを宣言するだけで即ムスリムと見なされ、各種の戒律を守ることになる。彼を誘ったモロッコ人の若者たちは厳格に戒律を守っているわけでなくとも、カトリックベースのベルギー人を一人改宗させただけで天国に行ける確率が大きくなる。
その後、スレイマンというイスラム名を得たギヨー自身、100以上のキリスト教徒をイスラムに改宗させて「徳」を積んだ。
(フィリピンのカトリック信者はイスラムに改宗するとメッカ巡礼ツアーが特典となる。
サウジアラビアのメディナのイスラム大学に留学したり、アフリカでアラビア語を習得したりして、イマムとしてモスクで説教するようにもなった。
18歳で、同じくイスラムに改宗した女性と結婚し、2人の娘も生まれた。
娘が7歳の時に2人の求婚者が現れた。うち一人は43歳で2人目の妻としてギヨーの娘を所望したのだ。ムハンマドも9歳の少女と結婚しているイスラム世界では普通のことだったが、ギヨーは断った。(娘たちは今18歳と16歳)
死の床にある父親がカトリックの信仰を取り戻したのを見た時も動揺した。

もう一つのイスラム信仰の揺らぎは2012年にメッカの巡礼を見た時だった。イスラムの信仰、戒律厳守などは強固で、秩序だっていると信じていたのに、メッカに集まる群衆はあちこちで排尿排便するなど不潔な上に押し合いへし合いで毎回死者が出るほど無規律だったからだ。
エジプトに行った時にコプトの運転者から「神は愛だ」という言葉を聞いた時も驚いた。戒律を救いの条件にし、地獄堕ちで脅すイスラムの神と違って「無条件の愛」というのがキーワードなのだ。
サラフィズムでは、「愛」よりも西洋や不信心者を嫌悪し憎悪するというのが信仰の手引きの根幹にあるという。
特にフランスは憎まれていて、改宗させるべき、あるいは殲滅すべき対象だ。フランスは娼婦の国、イスラムの第一の敵国だという。「カトリック教会の長女」という呼称もそれを補強する。

この本はギヨーにとってのセラピーでもあり、フランスにいるムスリムへのメッセージでもあるという。メッセージとは、「今いる国を愛すること、自分たちが優越しているという確信を取り去ることだ。ギヨーがスレイマンだった頃には欠如していた愛、慈悲、謙虚は、彼の内面を癒し、キリストが共に歩んでいける。ギヨーは福音書のイエスの言葉を引く。(マタイ 16, 25-26)
「私に付いて来たい者は、自分を捨て、自分の十字架を負って、私に従いなさい。

自分の命を救おうと思う者は、それを失い、私のために命を失う者は、それを得る。」

カトリックに回心した後は、サラフィストを憎む気持ちもあったが、今は、彼らはイスラム過激派の犠牲者であって、すべての犠牲者は同情と愛の対象だと理解している。(マタイ 5,44-45)

「私は言っておく。敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい。

天におられるあなたがたの父の子となるためである。父は、悪人にも善人にも太陽を昇らせ、正しい者にも正しくない者にも雨を降らせてくださるからである。」



by mariastella | 2025-12-07 00:05 |
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